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世界のAI法規制と日本の比較
まず結論から言うと、世界のAI法規制はAIがもたらすリスクのレベルに応じて規制の強さを変える「リスクベース・アプローチ」を基本とした、法的拘束力のあるハードローが増えてきています。
一方で、日本は現時点で事業者の自主的な取り組みを促す「ソフトロー(AI事業者ガイドライン)」を中心に据えており、アプローチに大きな違いがあります 。
- 【EU】AI Act(Artificial Intelligence Act):定義・リスク区分・高リスク要件・禁止行為・基盤モデル(GPAI)まで横断的に規律し、域内での提供・使用に統一義務を課すハードロー。適合宣言、技術文書、データガバナンス、ログ保持、透明性等を要求する。
- 【イタリア】国家AI法:EU法を前提に国内の原則・行政体制・分野別配慮(医療等)を整備。公共調達やデータの所在、サイバーセキュリティ、説明可能性などを明示し、EUルールの運用を国内で補強する。
- 【韓国】AI基本法(2025年1月成立/2026年施行):AI安全研究所、倫理委員会整備、ハイインパクトAI領域の定義等を掲げる包括的枠組み法で、説明の付与や政府の支援・監督の骨格を設けた。
- 【日本】AI事業者ガイドライン:非拘束のソフトローとして、リスクベース・ライフサイクル管理・ガバナンスの実務指針を統合。国内の多様な事業者に現実的な実装行動を促す。
【EU】世界初の包括的AI規制「EU AI法」
2024年6月に成立した「EU AI法」は、世界で初めてAIに特化した包括的な法的枠組みであり、今後のグローバルスタンダードになると目されています 。2026年から本格的に適用が開始されるこの法律の最大の特徴は、厳格なリスクベース・アプローチです 。
AIシステムを以下の4つのリスクレベルに分類し、それぞれ異なる義務を課しています。特に注目すべきは「高リスクAI」に関する厳しい要件です 。これらの分野でAIを提供する事業者は、EU市場に参入する前に、厳格な適合性評価を受ける必要があります。
違反した場合の**罰則も非常に厳しく、最大で3,500万ユーロ(約58億円)、または全世界の年間売上高の7%**のいずれか高い方が科される可能性があります 。
【イタリア】EU加盟国で初!国内法を整備し国家戦略を推進
EUの動きにいち早く呼応したのがイタリアです。2025年9月、EU加盟国として初めてEU AI法に準拠した国内法を成立させました 。
この法律は、EU AI法の国内適用を円滑に進めるだけでなく、イタリア独自のAI戦略を推進する目的も持っています。
- 国家AI当局の指定: 「AgID(デジタル・イタリア庁)」と「ACN(国家サイバーセキュリティ庁)」をAIに関する管轄当局として指定しました 。AgIDはイノベーション促進や認証機関の監督を、ACNは市場監視やサイバーセキュリティを担当します 。
- 国家戦略と投資: AI、サイバーセキュリティ、量子コンピューティング分野のスタートアップや中小企業を支援するため、最大10億ユーロ(約1,650億円)の投資を承認しました 。
イタリアの動きは、他のEU加盟国が今後どのように国内法を整備していくかのモデルケースとなるでしょう。
【韓国】産業振興を重視した「まず許容、例外的に禁止」アプローチ
アジアでAI規制をリードするのが韓国です。2025年1月に「人工知能の開発及び信頼基盤の確立に関するフレームワーク法」が可決され、2026年1月からの施行が予定されています 。
韓国のAI法は、EUとは少し異なり、**「まず許容し、例外的に禁止する」**という産業振興を重視したアプローチを基本原則としています 。
- 高インパクトAIの定義: EUの「高リスクAI」と同様に、国民の生命や安全、基本的人権に重大な影響を与える可能性のある「高インパクトAI」を定義しています。対象分野には、医療、雇用、ローン審査などが含まれます 。
- 事業者の義務: 高インパクトAIや生成AIの事業者は、ユーザーに対してAIを利用していることを通知する透明性確保の義務などを負います 。
- 推進体制: 大統領直下に「国家AI委員会」を設置し、国を挙げてAI政策を推進します 。
EUの規制モデルを参考にしつつも、自国の産業競争力強化を強く意識したバランスの取れた内容が特徴です。
【日本】法的拘束力のない「AI事業者ガイドライン」で自主規制を促進
では、日本の状況はどうでしょうか。総務省と経済産業省が共同で**「AI事業者ガイドライン」**を策定しました 。これは、EUや韓国のような法的拘束力を持つ「法律」ではなく、事業者の自主的な取り組みを促す**「ソフトロー」**です 。
- 10の共通指針: 「人間中心」「安全性」「公平性」「プライバシー保護」など、AIの開発・提供・利用に関わる全ての事業者が取り組むべき10の指針を提示しています 。
- リスクベース・アプローチとアジャイル・ガバナンス: 海外と同様にリスクベース・アプローチを採用しつつ、技術の急速な変化に対応するため、継続的にルールを見直していく「アジャイル・ガバナンス」の考え方を重視しています 。
- 対象者: AI開発者、AI提供者、AI利用者の3つの主体を定義し、それぞれの役割に応じた留意点をまとめています 。
日本がソフトローを選択した背景には、厳格な法規制がイノベーションを阻害する可能性への懸念があります 。しかし、このガイドラインも国際的な議論を踏まえたものであり、海外の法規制の根底にある考え方と共通する部分が多くあります。
まとめ:グローバルな視点でAIガバナンス体制の構築を
今回は、EU、イタリア、韓国、そして日本のAIに関するルール作りを比較解説しました。
- EU、イタリア、韓国: 法的拘束力のある「ハードロー」を制定・準備中。リスクベース・アプローチを基本とし、特に高リスク分野では事業者に厳しい義務を課す。
- 日本: 法的拘束力のない「ソフトロー」で事業者の自主的なガバナンス構築を促進。
AIビジネスをグローバルに展開する企業にとって、各国の法規制を正確に理解し、対応することは避けて通れません。たとえ国内事業が中心であっても、信頼できるAIを提供するためには、国際的な潮流を踏まえたAIガバナンス体制の構築が不可欠です。
参考・出典
本記事は、以下の資料を基に作成しました。
- Governo Italiano Presidenza del Consiglio dei Ministri(https://www.governo.it/it):Approvata in via definitiva la legge italiana sull’Intelligenza Artificiale (2025年09月17日)(アクセス日:2025年10月09日)
https://innovazione.gov.it/notizie/articoli/approvata-in-via-definitiva-la-legge-italiana-sull-intelligenza-artificiale/ - GAZZETTA UFFICIALE:DELLA REPUBBLICA ITALIANA(2025年09月25日)(アクセス日:2025年10月09日)
https://www.gazzettaufficiale.it/eli/gu/2025/09/25/223/sg/pdf - CSET:Framework Act on the Development of Artificial Intelligence and Establishment of Trust(アクセス日:2025年10月09日)
https://cset.georgetown.edu/wp-content/uploads/t0625_south_korea_ai_law_EN.pdf?utm_source=chatgpt.com - EUR-Lex:REGULATION (EU) 2024/1689 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL(アクセス日:2025年10月09日)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=OJ%3AL_202401689&utm_source=chatgpt.com - 経済産業省:AI 事業者ガイドライン(第1.1版)(2025年03月28日)(アクセス日:2025年10月09日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20250328_1.pdf
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