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FSBが発見した主要な課題
報告書の最も重要な発見は、規制の実装が断片的で不整合であることです。
FSB加盟国を含む多くの管轄区域が暗号資産サービスプロバイダー(CASP)向けの規制枠組み(CA推奨事項)の実装を進めている一方で、グローバル・ステーブルコイン(GSC)向けの規制枠組み(GSC推奨事項)の実装は大きく遅れています。
具体的な数字を見ると、調査対象となった管轄区域のうち、CA推奨事項について最終的な規制枠組みを持つのは39%(11管轄区域:バハマ、バミューダ、チリ、EU、香港、インドネシア、日本、ナイジェリア、シンガポール、タイ、トルコ)にとどまり、GSC推奨事項についてはわずか21%(5管轄区域:バハマ、バミューダ、EU、香港、日本)しか最終的な枠組みを持っていません。この実装の遅れは、国際的な金融安定性にリスクをもたらす可能性があります。
暗号資産サービスプロバイダー規制の実装状況
CA推奨事項の実装において、管轄区域は大きく2つのアプローチを採用しています。
- 既存の金融規制を暗号資産に拡張する方法:
日本、シンガポール、香港、カナダ、スイス、オーストラリア、アルゼンチン、トルコ、ナイジェリア、南アフリカがこの方法を採用しています。これらの国々は、暗号資産を既存の証券法や決済法の枠組みに組み込むことで、規制の整合性を確保しています。 - 暗号資産の特性に合わせた専用の規制枠組みを構築する方法:
EU(MiCAR)、バミューダ、バハマ、チリ、インドネシア、フィリピン、タイ、アルメニアがこの方法を選択しています。
しかし、報告書は重要な規制ギャップを指摘しています。特に、借入・貸付、マージン取引、イールド・プログラムなど、財務安定性リスクの高い活動に対する規制が不十分な管轄区域が多いのです。実際、暗号資産の借入・貸付を包括的に規制しているのは、バミューダとバハマの2つの管轄区域のみです。
ステーブルコイン規制の実装遅れと課題
ステーブルコイン規制の実装が遅れている主な理由は、既存の規制権限とツールがGSCのリスクを包括的に対処するのに不十分であることです。このため、多くの管轄区域は、ステーブルコインを独自の決済手段として扱う専用の規制枠組みの開発を進めています。
現時点で包括的なステーブルコイン規制を実装しているのは、EU、香港、日本、バミューダ、バハマの5管轄区域のみです。これらの管轄区域では、ステーブルコインを証券ではなく決済手段として位置づける傾向が強まっています。
特に注目すべきは、複数管轄区域にまたがるステーブルコイン発行の課題です。管轄区域間で償還要件、準備資産の保管要件、情報開示のタイミングと詳細が異なることは、規制上・監督上の重大な課題となっています。ある管轄区域では償還が1営業日以内と義務付けられている一方、別の管轄区域では5営業日以内とされるなど、要件の違いは流動性リスクを高める可能性があります。
データ報告とクロスボーダー協力の現状
報告書は、データ報告要件の実装が他の規制要素より大幅に遅れていると指摘しています。19管轄区域がCASP向けの包括的な規制枠組みを最終化している一方で、財務安定性リスクを効果的に監視するための包括的な報告要件を持つのは11管轄区域(バミューダ、カナダ、チリ、香港、ハンガリー、インドネシア、日本、フィリピン、シンガポール、タイ、トルコ)のみです。
クロスボーダー協力についても大きな課題があります。現在、多くの管轄区域はIOSCOの多国間覚書(MMoU)などの既存のメカニズムを活用していますが、これらは主に執行や免許付与目的で使用されており、財務安定性監視には拡張されていません。
主な課題として以下が挙げられています:
- 国内当局間での責任の断片化
- 暗号資産の定義の相違
- 秘密保持法やプライバシー法による法的障壁
- データ品質と利用可能性の制限
FSBの8つの推奨事項と今後の展望
報告書は発見された課題に対処するため、以下8つの推奨事項を提示しています。
実装進捗について:
- 管轄区域は現在の計画を見直し、FSB暗号枠組みの完全実装を確保すべき
- FSBおよび他の基準設定機関は、FSB暗号枠組みの包括的で整合的な実装を促進すべき
規制枠組みの包括性について:
- 管轄区域はCASP活動に関する特定されたギャップを埋めるべき
- 管轄区域はGSCに関する特定されたギャップを埋めるべき
- 管轄区域は暗号資産市場の財務安定性リスクを監視するためのデータ能力とインフラを改善すべき
整合性とクロスボーダー協力について:
- FSBは基準設定機関と協力し、ステーブルコイン規制アプローチの整合性を促進する方法を検討すべき
- 管轄区域はクロスボーダー暗号資産活動の規模と性質を評価し、適切な協力ツールを活用すべき
- FSBは関連する基準設定機関と共に、効果的なクロスボーダー協力を実現するためのベストプラクティスと解決策を検討すべき
主要銀行グループによる新たな動き
一方で、規制実装が進む中での前向きな動きもあります。
2025年10月10日、三菱UFJ銀行を含む主要国際銀行グループが、G7の原則に基づいたパブリックブロックチェーン上で利用可能な1:1準備金担保型デジタルマネーの発行を検討していることが発表されました。
この銀行グループは10行で、バンク・オブ・アメリカ、サンタンデール銀行、バークレイズ、BNPパリバ、シティ、ドイツ銀行、ゴールドマン・サックス、三菱UFJ銀行、TDバンク・グループ、UBS、の世界有数の金融機関が含まれています。
この取り組みの目的は、業界全体に新たなサービスを提供し、規制要件とベストプラクティスのリスク管理への完全な準拠を確保しながら、デジタル資産の利点を活用し、市場全体の競争を強化することです。
まとめ:規制の整合性確保が今後の鍵
FSBピアレビュー報告書は、暗号資産およびステーブルコインの規制実装が依然として初期段階にあり、管轄区域間の断片化と不整合が財務安定性リスクをもたらす可能性があることを明確に示しています。
特に重要なのは、財務安定性リスクの高いCASP活動(借入・貸付、マージン取引など)の包括的な規制、ステーブルコイン発行者に対する堅牢なリスク管理要件の実装、そしてクロスボーダー協力メカニズムの強化です。
一方で、主要銀行グループによる規制準拠型ステーブルコインの検討は、規制環境の整備が進むにつれて、伝統的金融機関も暗号資産エコシステムへの参入を本格化させていることを示しています。今後、規制の整合性確保と国際協力の強化が、健全な暗号資産市場の発展にとって極めて重要になるでしょう。
参考・出典
本記事は、以下の資料を基に作成しました。
- FSB(https://www.fsb.org/):Thematic Review on FSB Global Regulatory Framework for Crypto-asset Activities (2025年10月16日)(アクセス日:2025年10月17日)
https://www.fsb.org/uploads/P161025-1.pdf?utm_source=chatgpt.com - Banco Santander, S.A.(https://www.santander.com/en/home):Group of leading international banks explores issuance of a 1:1 reserve-backed form of digital money(2025年10月10日)(アクセス日:2025年10月17日)
https://www.santander.com/en/press-room/press-releases/2025/10/group-of-leading-international-banks-explores-issuance-of-a-1-1-reserve-backed-form-of-digital-money?utm_source=chatgpt.com
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