BNPLは「普通のクレジット」化:英国FCA規制とKlarna決算から読むリスクとチャンス

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BNPL(Buy Now Pay Later)は、もはや「グレーゾーンの便利な後払い」ではなく、各国当局が本格的にルールを整える段階に入っています。英国FCAは2026年7月15日からBNPLを既存のクレジット並みに規制対象とする方針を示し、一方で大手Klarnaは2025年Q3に過去最高のGMVと収益を記録しました。
結論として、BNPLはビジネスとしての伸びしろは大きい一方で、「消費者保護」と「収益性」の両立が問われるフェーズに入っており、日本の金融機関・カード会社・フィンテックも他人事ではありません。

1. FCAが示した「BNPL規制」の骨子

英国FCAの「Regulating Buy Now Pay Later (BNPL)」によると、政府は繰延支払信用(Deferred Payment Credit, DPC)=実質的な未規制BNPLをFCAの規制下に置くことを決定しました。規制のタイムラインは以下の通りです

  • 2025年9月26日:意見募集締切
  • 2026年初:最終ルール・ポリシーステートメント公表
  • 2026年7月15日:規制開始(regulation day)

規制開始後、第三者レンダーによるDPCは規制対象のクレジット契約となり、BNPLレンダーは以下が求められます。

  • FCAの消費者信用の認可を取得、または一時的許可レジーム(TPR)への登録
  • 返済能力をチェックする与信審査の義務付け
  • 返済困難時の支援やフォローアップ
  • トラブル時に金融オンブズマン・サービスへの苦情申立権を付与
  • 既存のConsumer Duty(顧客本位の原則)に沿った情報提供・説明

FCAによれば、未規制BNPLを利用した英国成人は2022年の17%から2024年には20%(約1,090万人)に増加しており、DPCユーザーは平均して若年・信用力が低く、無担保債務も多く、財務的困難に陥っている割合が高いとされています。

つまりFCAは、「BNPLは生活を助ける一方で、脆弱な顧客層に負担を集中させるリスクがある」と明確に認識し、その前提で制度設計を進めていると言えます。

2. Klarna決算が示す「高成長×低損失」の現実

一方で、2025年9月にニューヨーク証券取引所に上場したBNPLの大手企業、Klarnaの2025年Q3決算は、BNPLモデルの収益ポテンシャルを強く示しています。それを示す主な数値は以下の通りです。

  • GMV(流通取引総額):327億ドル(前年比+23%)
  • 収益:9.03億ドル(前年比+26%、米国は+51%)
  • アクティブ消費者数:1.14億人(前年比+32%)、加盟店数は85万社
  • 実現損失率の低下:0.44%(1ベーシスポイント(bp)低下)

さらに、固定金利ローンを中心とした「Fair Financing」事業は、

  • 米国GMVが前年同期比+244%
  • ローン全期間で見た取引マージンはグループ平均の2倍超

と、収益性の高いプロダクトとして急成長しています。

KlarnaはCEOレターの中で、「AIが情報の非対称性を壊し、透明で顧客本位の金融を可能にしている」としつつ、実際に与信モデルの高度化とオペレーション自動化によって、成長と損失抑制の両立を示しています。

BNPLは消費者に利益(手頃な信用へのアクセス、便利な支払い期間分散)を提供する一方で、リスクと潜在的な危害をもたらします。FCAは、BNPL利用者が保護されながら利益を得られるようにするため、規制下に置くことを長年求めてきました。
今回の規制の目的は、消費者に危害が及ぶリスクを低減することです。日本の事業者にとって重要なのは、「規制強化を前提にテックと与信を磨き上げたプレーヤーだけが残る」というゲームチェンジが起きつつあることです。

3. 日本の金融機関・フィンテックが今から準備すべき3つのポイント

最後に、日本の金融機関・カード会社・フィンテックのリスク/コンプラ担当者など、このような英国の動きに備えるべく、必要な視点を3つに整理します。

3-1. 「グレーゾーン前提」の設計から卒業する

日本でも少額・短期・手数料無料の後払いスキームが増えていますが、FCAのように「実質クレジットかどうか」で線引きされる流れは、他国規制でも一般的になりつつあります。

本規制に対応すべく、早い段階から与信・説明・苦情処理フローを棚卸しする必要があります。

3-2. 与信モデルとコンダクト規制をセットで見る

FCAは、BNPLに対しても既存のConsumer Dutyを適用し、「顧客にとって良いアウトカム」を求めています。

AIスコアリングやオープンデータを活用した高度な与信は、単にデフォルト率を下げるだけでなく、「過剰与信を避ける」「脆弱な顧客への配慮を組み込む」ためのツールとして設計すべきです。

3-3. 収益性指標を“規制耐性”のメトリクスと紐づける

Klarnaは、GMVや売上成長に加え、「Fair Financingの生涯マージン」「実現損失率0.44%」といった指標を対外的に示しています。

単なる「決済取扱高」「加盟店数」だけでなく、消費者保護と両立した収益性指標(遅延発生率、リスケ対応件数、脆弱顧客への配慮指標など)をモニタリング・開示できるようにしておくことが、将来の規制・監督との対話コストを下げる鍵になります。

まとめ:規制前提のビジネスデザイン

BNPLは、英国ではすでに高成長企業Klarnaの決算数字と、FCAによる規制強化の動きが同時進行しています。

日本の金融機関・カード会社・フィンテック企業が、今からこの流れを押さえておけば「後追いで規制対応に追われる側」ではなく、「規制を前提にビジネスをデザインする側」に回ることができるはずです。


参考・出典

本記事は、以下の資料を基に作成しました。


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