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なぜここまで規制が進んだのか:背景は3つだけ押さえればいい
一見すると複雑で分かりにくいステーブルコイン規制ですが、背景にある考え方は意外とシンプルです。各国の制度設計を突き詰めていくと、共通して意識されている論点は次の3つに集約されます。
金融安定性リスクへの対応
これまで一部のステーブルコインは、裏付け資産の内容や管理方法が不透明なまま、巨額の流通量を抱えてきました。その結果、金融市場全体への影響が無視できない水準に達し、各国当局が本格的に規制へ踏み切る動きが強まりました。
マネロン・制裁回避対策
ステーブルコインは、国境を越えて瞬時に送金できる利便性を持つ一方で、マネーロンダリングや制裁逃れに悪用されるリスクも指摘されてきました。このため、各国はAML/CFT(マネロン・テロ資金対策)を前提条件とした発行・流通ルールの整備を急いでいます。
CBDCとの区別と利用者保護
近年、各国中央銀行がCBDCの研究・実証を進める中で、「民間のデジタルマネー」と「公的通貨」の関係整理が避けられなくなりました。そこで規制当局は「公的通貨」と「民間デジタルマネー」との法的境界を明確化しました。
これにより、民間発行者が担うイノベーション領域を定義しつつ、公的通貨の地位保全と、破綻時でも利用者が保護される安全なエコシステムの構築を目指しています。これら3つの視点こそが、米国・EU・香港を含む主要国・地域に共通する、ステーブルコイン規制の根本ロジックといえます。
米国の最新動向:GENIUS法で「合法ゾーン」が明確化
米国では、2025年にGENIUS法(Guaranteeing Essential National Infrastructure Using Stablecoins Act)が成立し、ドル連動型ステーブルコインを対象とした連邦レベルの制度枠組みが明確化されました。
これまで米国では、州法や当局の解釈に委ねられる部分が多く、発行体にとって法的位置づけが分かりにくい状況が続いていました。
GENIUS法の成立により、発行体に求められる準備資産の管理方法やガバナンス要件が整理され、ステーブルコインが法的に「許容される領域(合法ゾーン)」が明示された点が大きな特徴です。米国は、禁止や締め付けではなく、ルールを設けたうえで民間のイノベーションを活用する方針を明確にしたといえます。
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EU:MiCAで世界初の“横断型ルール”が完成
EUではMiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)が段階的に施行され、2024年以降、ステーブルコイン(ART:資産参照型トークン、EMT:電子マネートークン)は包括的な法規制の枠組みに正式に組み込まれました。
これによりEU域内では、国ごとに異なっていた暗号資産規制が統一され、「どの国で発行・提供しても同じルールが適用される」環境が整いつつあります。
MiCAの主な要点
- ホワイトペーパーの作成・届出義務:事前の審査・承認は行われませんが、発行者責任で透明性を確保します。
- 発行体の認可・資本要件:財務基盤の弱い事業者を排除し、市場の健全性を担保します。
- 準備資産の分別管理・保全義務:発行体の破綻時でも、利用者資産を守る設計です。
ESMA(欧州証券市場監督局)は、MiCAを「市場の健全性と金融安定性を支えるための統一ルール」と位置づけています。 これは、透明性や認可要件を通じて投資家がリスクを正しく理解できる環境を整備し、EU全域で整合性のとれた安全な市場を確立することを目的としています。
EUの特徴は、厳格な統一ルール(MiCA)で市場の健全性を担保する「安定性重視」の姿勢にあります。この堅実なアプローチは、投資家保護と慎重さを最優先する香港とも共通しており、むしろ「スピードと覇権」を掲げ急速な拡大を目指す米国のスタンスと対照的と言えます。
香港:ライセンス制で「アジアのステーブルコイン拠点」を狙う
香港金融管理局(HKMA)は、ステーブルコイン発行者を対象としたライセンス制度を導入し、アジア地域における明確なルール整備に踏み出しました。これにより香港は、規制とイノベーションの両立を前提とした制度設計を明確に示しています。
香港モデルの特徴
- 法定通貨連動型ステーブルコインのみを規制対象
- 発行者は香港拠点+厳格なガバナンス要件が必須
- 準備資産の保全・償還請求権を明文化
- 国際基準(BIS・FSB)との整合性を重視
HKMAの公式ガイドラインでは、制度の目的として「投資家保護と金融イノベーションの両立」が明確に掲げられています。この方針は、ルールを明示することで海外事業者を呼び込み、健全な競争環境を形成する狙いを示すものです。
特に注目すべきなのは、香港が中国本土の厳格な暗号資産規制とは一線を画しつつ、国際基準に沿った制度を整えている点です。この立ち位置から、香港は今後、中国本土とグローバル市場をつなぐ「ステーブルコインの実験場」としての役割を担っていく可能性があります。
日本:法整備済みで日本初ステーブルコイン「JPYC」発行済み
日本のステーブルコインは、2023年6月の改正資金決済法施行により「電子決済手段」として法的に位置づけられ、世界に先駆けて安全な利用環境が整備されました。発行主体は銀行、信託会社、資金移動業者に限定され、利用者保護のために発行額と同額以上の資産保全が義務付けられています。
詳細:日本のステーブルコイン法整備はもうされていた!どんなふうに?安全性は?
この法整備の下、2025年10月27日には国内初の日本円ステーブルコイン「JPYC」が正式に発行を開始しました。JPYCは常に「1JPYC=1円」の価値で交換可能で、マイナンバーカードを用いた本人確認を経て専用の取引所「JPYC EX」で入手や日本円への換金が可能,。利用先としてクレジットカードの支払いやクリエイター支援などが発表されており、三菱UFJ信託銀行などの金融機関も参入するなど、新たな経済圏の拡大が期待されています。
詳細:【初心者向け】国内初の日本円ステーブルコイン「JPYC」完全ガイド!どこで、どう使えるの?
発行体の透明性競争:CircleとTetherは何が違うのか
各国で規制が整備されつつある現在、ステーブルコイン市場では、発行体がどれだけ透明性を確保できるかが重要な競争軸になっています。制度上の要件を満たすだけでなく、市場や利用者から信頼できると判断されるかどうかが、採用拡大を左右する段階に入っています。
Circle(USDC)
Circleは、規制順守と透明性を軸にした正攻法の戦略を取る発行体です。
- 毎月の準備資産レポートを公開
- 米国債・現金中心の保守的な資産運用
- 各国当局との協調姿勢が明確
Circleは、「透明性と安定性」こそがステーブルコインの価値基盤であると打ち出しており、金融機関や企業ユースケースとの親和性が高い設計といえます。
Tether(USDT)
一方、Tetherは圧倒的な流通量と市場浸透度を背景に成長してきた発行体です。
- 四半期ごとの準備資産内訳を公開
- 米国債比率の上昇を強調
- 規制対応は後追い型
近年は透明性強化を進めているものの、過去の経緯から市場の評価は現在も分かれています。USDTは流動性や利便性を重視する層には支持される一方、規制適合を重視する機関投資家からは慎重に見られる傾向があります。
両者を比較すると、Circleは「規制と信頼を土台に拡大するモデル」、Tetherは「市場規模と実需を先行させたモデル」と整理できます。今後、規制がさらに明確化されるにつれ、透明性の差が利用シーンや採用主体の違いとして表面化していく可能性が高いでしょう。
CBDCとの関係:競合ではなく「多様性」
ステーブルコインを巡っては、「CBDCが普及すれば、民間ステーブルコインは不要になるのではないか」という疑問がよく挙がります。
しかしBIS(国際決済銀行)はこの見方を否定し、CBDCを「決済手段の多様性を促進する、最も安全な通貨へのアクセスを維持する可能性がある」と位置付けており、両者は異なる役割の下で整備が進められています。
BISが示す基本的な役割分担
- CBDC:公共インフラとしてのデジタル通貨であり、法定通貨の信頼性や通貨主権をデジタル空間でも維持する役割を担います。
- ステーブルコイン:民間主導で発行され、プログラマブルマネーなどを通じて、新しい決済体験やユースケースを提供します。
この整理に立つと、CBDCは基盤、ステーブルコインはその上で動く民間サービスと捉えることができます。BISイノベーションハブでも、「用途別の共存」を前提とした設計思想が示されています。
すなわち、公共性の高い決済インフラはCBDCが担い、越境決済や特定用途の取引はステーブルコインが担う、という分業です。そのため近年の規制は、民間イノベーションを排除するものではなく、CBDCと並存させるためのルール整備として進められています。
まとめ:規制は「終わり」ではなく「選別の始まり」
ステーブルコインを取り巻く規制は、混乱期を経て世界的に一定の方向性へ収束しつつあります。各国のアプローチには違いがあるものの、無秩序な拡大を放置しないという点では共通しています。今後の市場で生き残るステーブルコインは、次の3条件を満たすものに絞られていくでしょう。
- 完全裏付け:いつでも額面で償還できる、明確な準備資産を持っていること
- 透明性:準備資産の内容や管理状況を、継続的に開示していること
- 規制適合:各国・地域の法制度の内側で運営されていること
これらは、利用者や企業が安心して利用できるかどうかを判断するための最低条件です。
また、「どの国で、どの用途で使うのか」によって、最適なステーブルコインは異なります。規制環境や思想が異なる以上、一つのトークンがすべての場面で万能になることはありません。規制が増えた現在は、制約が強まったように見えるかもしれません。
しかし実際には、曖昧な存在が淘汰され、本当に使えるステーブルコインだけが残る段階に入ったといえます。
これからは「価格の安定性」だけでなく、制度・透明性・信頼性を含めて選ぶ時代が始まっています。
参考・出典
本記事は、以下の資料を基に作成しました。
- The Whitehouse:Fact Sheet: President Donald J. Trump Signs GENIUS Act into Law(アクセス日:2026年2月3日)
https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/07/fact-sheet-president-donald-j-trump-signs-genius-act-into-law/ - European Securities and Markets Authority(ESMA):Markets in Crypto-Assets Regulation (MiCA)(アクセス日:2026年2月3日)
https://www.esma.europa.eu/markets-crypto-assets-regulation-mica - Hong Kong Monetary Authority(HKMA):Regulatory Regime for Stablecoin Issuers(アクセス日:2026年2月3日)
https://www.hkma.gov.hk/eng/key-functions/international-financial-centre/stablecoin-issuers/
STABLECOINS ORDINANCE(2025年8月)(アクセス日:2026年2月3日)
https://www.hkma.gov.hk/media/eng/doc/key-functions/ifc/stablecoin-issuers/Guideline_on_supervision_of_licensed_stablecoin_issuers_eng.pdf
Legislative Proposal to Implement the Regulatory Regime for Stablecoin Issuers in Hong Kong(2024年7月)(アクセス日:2026年2月3日)
https://www.hkma.gov.hk/media/eng/doc/key-information/press-release/2024/20240717e3a1.pdf - The Financial Stability Board:Crypto assets and financial stability(アクセス日:2026年2月3日)
https://www.youtube.com/watch?v=Go-1IspHZF0 - Bank for International Settlements(BIS):BIS Innovation Hub work on central bank digital currency(アクセス日:2026年2月3日)
https://www.bis.org/about/bisih/topics/cbdc.htm - Circle:Transparency & stability(アクセス日:2026年2月3日)
https://www.circle.com/en/transparency - Tether:Transparency(アクセス日:2026年2月3日)
https://tether.to/en/transparency/
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