日本のAI政策を徹底解説|AI法・指針・基本計画で企業が押さえるべき3つのポイント

  • 読了時間目安 8分

企業のAI投資や開発戦略を立てるうえで、規制環境の把握は欠かせません。日本政府は2025年、AI分野において重要な法制度を相次いで整備しました。その中心となるのが「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下、AI法)であり、これを軸に指針・基本計画が体系的に策定されています。
本記事では、日本のAI政策・規制の全体像から実践的なポイントまで解説します。

日本AI政策の3層構造を理解する

日本のAI政策は、「法律」・「指針」・「基本計画」という3層構造で成り立っています。最上位に位置する法律「AI法」が基本的な枠組みを定め、その下に適正性確保のための「指針」、そして具体的な施策を盛り込んだ「基本計画」が配置されています。事業者はこの3層を横断的に理解することで、自社のAIガバナンス体制を効果的に構築できます。

AI法|概要と事業者への影響

法律制定の背景

AI法は令和7年(2025年)5月28日に成立し、同年9月1日に全面施行されました。内閣府によれば、法律制定の背景には「日本のAI開発・活用は遅れている」という現状認識と、「多くの国民がAIに対して不安」を抱えているという課題があります。

この法律は、既存の刑法や個別の業法だけでは対応しきれないAI固有の課題に取り組むために制定されました。目的は「国民生活の向上」と「国民経済の発展」であり、イノベーション促進とリスク対応の両立を掲げています。

法律の主要な構成要素

AI法は以下の要素で構成されています。

基本理念として、経済社会および安全保障上の重要性を認識し、研究開発力の保持と国際競争力の向上を目指します。基礎研究から活用まで総合的・計画的に推進するとともに、透明性の確保を重視し、国際協力において主導的役割を果たすことが定められています。

AI戦略本部は、内閣総理大臣を本部長とし、全ての国務大臣が構成員となる強力な推進体制です。関係行政機関等に対して必要な協力を求める権限を持ち、省庁横断的なAI政策を推進します。

基本的施策には、研究開発の推進、施設等の整備・共用の促進、人材確保、教育振興、国際的な規範策定への参画が含まれます。また、権利利益を侵害する事案の分析・対策検討、事業者等への指導・助言・情報提供も規定されています。

重要な点として、「事業者は国等の施策に協力しなければならない」という責務規定が設けられています。これは企業にとって、AI政策への積極的な関与が法的にも求められることを意味します。

適正性確保に関する指針|実務的な行動指針

指針の位置づけと基本的考え方

AI法第13条に基づき、令和7年12月19日に人工知能戦略本部が決定した「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」は、事業者の自主的かつ能動的な取組を促すための具体的な行動指針です

60の国・地域が参加する「広島AIプロセス・フレンズグループ」の実績を踏まえ、国際モデルとなる枠組みを目指しています。この指針は、広島AIプロセスを牽引してきた日本が、国際規範の趣旨に即して策定したものです。

適正性確保のための10の要素

指針では、「人間中心のAI社会原則」(平成31年3月29日統合イノベーション戦略推進会議決定)の理念を踏まえ、以下の10の要素を提示しています。

  1. 人間中心:人間の尊厳や基本的人権を尊重し、法令を遵守すること。AIを活用する範囲や条件については、人間自らが最終的な判断を行います。
  2. 公平性:AIの活用によって、社会に不当な偏見や差別を生じさせたり、助長したりしないこと。バイアスやジェンダーギャップへの配慮も含まれます。
  3. 安全性:AIの活用によって、生命、身体、財産等に危害を及ぼさないようにすること。ディープフェイク技術による被害も含まれます。
  4. 透明性:必要かつ技術的に可能な範囲での情報開示、事後的な検証可能性の確保により、透明性を適切に確保すること。
  5. アカウンタビリティ:責任の所在の明確化、責任を果たすための仕組みの構築により、技術的、制度的、社会的観点からアカウンタビリティを合理的な範囲で果たすこと。
  6. セキュリティ:不正な操作によるAIの意図しない動作や停止をはじめとするセキュリティ上のリスクを低減させること。
  7. プライバシー・個人情報:取り扱うデータの重要性等に応じてプライバシーを尊重し、個人情報保護法等関連法令を遵守すること。
  8. 公正競争:特定の者にAIに関する資源が集中した場合においても、不公正な取引が行われないようにすること。
  9. AIリテラシー:AIがもたらすリスクの社会的受容可能な水準は変わり得ることを認識し、知識・能力を身に付けるとともに、倫理観を保持すること。
  10. イノベーション:環境負荷の低減を含む持続可能性を確保しつつ、イノベーションの促進に貢献するよう努めること。

事業者が取り組むべき5つの重点事項

指針では、研究開発機関および活用事業者が特に取り組むべき事項として、以下の5点を挙げています。

  1. AIガバナンスによる俯瞰的な適正性の確保:AIのライフサイクル全体で、リスクの特定・評価・対処をするための組織的なプロセスを構築・運用・継続改善します。ISO/IEC 42001(AIマネジメントシステム)等の国際規格に基づく体制整備が推奨されています。
  2. ステークホルダーとの信頼関係の構築に向けた透明性の確保:学習データの出所と出力される生成物について、知的財産やプライバシー等の保護を含め、合理的な範囲で説明可能性を確保します。
  3. 十分な安全性の確保:AIを悪用したサイバー攻撃や詐欺への対策、ハルシネーションや偏見・差別の助長を防ぐ取組が求められます。電子透かし、来歴管理、API等によるAI生成コンテンツの判別技術の実装も推奨されています。
  4. 事業継続性確保による安全な環境の維持:障害発生時に備えた事業継続計画(BCP)の策定が必要です。
  5. データの重要性を踏まえたステークホルダーへの配慮:知的財産等のデータ保有者等に対する利益還元のエコシステム構築に向けた方策の検討・実施が期待されています。

人工知能基本計画|具体的施策と目標

「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」への道筋

令和7年12月23日に閣議決定された「人工知能基本計画」は、「信頼できるAI」による「日本再起」をサブタイトルに掲げ、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」の実現を目標としています。

基本計画は、AIを「人口減少」「国内への投資不足」「賃金停滞」といった日本の長年の課題を解決する手段と位置づけています。同時に、誤判断、ハルシネーション、差別や偏見の助長、犯罪への利用、プライバシーや著作権の侵害、偽・誤情報の拡散といったリスクへの対応も重視しています。

3原則と4つの基本方針

基本計画は以下の3原則を定めています。

  1. イノベーション促進とリスク対応の両立:人とAIが協働し、「人間中心のAI社会原則」を実現するために、両立を徹底します。
  2. アジャイルな対応:PDCAサイクルを循環させ、変化に即応しつつ柔軟かつ迅速に対応します。
  3. 内外一体での政策推進:国内政策と対外政策を表裏一体かつ有機的に組み合わせます。

これらの原則に基づき、4つの基本方針が示されています。

  1. AI利活用の加速的推進(AIを使う):政府自らが積極的かつ先導的に利活用し、将来的には中央省庁の全職員が業務の質の向上を実感できる環境の構築を目指します。
  2. AI開発力の戦略的強化(AIを創る):フィジカルAI、AI for Science等、日本の強みを活かした開発を推進します。
  3. AIガバナンスの主導(AIの信頼性を高める):AIセーフティ・インスティテュート(AISI)を抜本的に強化し、人員を現行の2倍程度に拡充します。
  4. AI社会に向けた継続的変革(AIと協働する):産業や雇用の在り方、制度や社会の仕組み等を先導的かつ継続的に変革します。

実践的なポイント

投資判断のポイント

日本のAI政策は、規制よりもイノベーション促進に重きを置いています。EU AI規制法のような厳格なリスク分類・規制ではなく、事業者の自主的な取組を促す「ソフトロー」的アプローチが特徴です。このため、AI投資においては、政府施策との連携可能性を積極的に探ることが有効です。特に、医療・ヘルスケア、防災・インフラ、製造業などの分野では、政府による開発・実証・導入支援が予定されています。

開発体制構築のポイント

指針が示す10の要素を自社のAI開発プロセスに組み込むことが重要です。特に、AIガバナンスの構築においては、ISO/IEC 42001等の国際規格を活用することで、国際的な信頼性確保にもつながります。広島AIプロセスの「報告枠組み」への自主的な参加も検討に値します。

ガバナンス体制整備のポイント

指針では、事業者に対してリスクベースでのアプローチとアジャイルな対応を求めています。固定的なルールではなく、技術進歩とリスクの変化に応じてPDCAサイクルを回す柔軟な体制が必要です。また、データ保有者等のステークホルダーとの継続的なコミュニケーションも重視されており、知的財産への配慮を含むエコシステム構築への貢献が期待されています。

まとめ

日本のAI政策は、AI法を基盤として、指針と基本計画が有機的に連携する3層構造で構成されています。その特徴は、厳格な規制ではなく、事業者の自主的な取組を促進しながら、国際競争力の強化とリスク対応を両立させる点にあります。「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」という目標のもと、政府は積極的な投資と支援を行う方針です。事業者は、この政策環境を理解したうえで、AIガバナンス体制を整備し、政府施策との連携を図ることで、競争優位性を確保できるでしょう。


参考・出典

本記事は、以下の資料を基に作成しました。


AI利用について

本記事はAIツールの支援を受けて作成されております。 内容は人間によって確認および編集しておりますが、詳細につきましてはこちらをご確認ください。

TOP
TOP