【完全解説】EUDI Walletって何?2026年義務化の欧州デジタルIDウォレット

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2024年は、欧州におけるデジタルアイデンティティの歴史において大きな転換点となりました。欧州連合(EU)は「EUDI Wallet(European Digital Identity Wallet)」という新たなデジタル身分証明システムの法的枠組みを確立し、2026年末までに全加盟国でのウォレット提供を義務化する大規模なプロジェクトを本格始動させています。この動きは、EU域内でビジネスを展開する日本企業にとって、無視できない重要な変化をもたらす可能性があります。
本記事では、EUDI Walletの概要から法的枠組み、導入スケジュール、そして日本企業への影響まで、ビジネスパーソンが押さえておくべき情報を包括的に解説します。

EUDI Walletとは何か

EUDI Walletは、EU市民・居住者・企業が、オンラインおよび対面で自身の身分を証明し、検証済みの属性情報を共有できるモバイルベースのデジタルIDウォレットです。従来のパスポートや身分証明書をデジタル化するだけでなく、運転免許証、学歴証明、職業資格、さらには年齢確認といった多様な「検証可能な資格情報(Verifiable Credentials)」を一元管理できる点が特徴です。

欧州委員会は、このシステムを「市民がデジタル環境において自らの権利を行使し、デジタル経済に参加するための、完全に個人の管理下にあるデジタルアイデンティティへの権利」を実現するものと位置付けています。

EUDI Walletの主な特徴として、以下の点が挙げられます。

  1. 選択的開示(Selective Disclosure)機能:ユーザーは、サービス利用時に必要最小限の情報のみを共有できます。例えば、年齢制限のあるサービスを利用する際、生年月日全体を開示することなく「18歳以上である」という事実のみを証明することが可能です。
  2. 越境相互運用性:あるEU加盟国で発行されたウォレットは、他の全加盟国で認識・受け入れられます。これにより、国境を越えた行政手続きやビジネス取引が大幅に簡素化されます。
  3. プライバシー・バイ・デザインの設計思想:ユーザーが常にデータの管理権を持ち、何を誰と共有するかを完全にコントロールできます。データの追跡やプロファイリングのリスクを最小化する設計となっています。
  4. 無料での利用が保証:生身の人間(個人)の非専門的使用については無料で提供されます。

法的枠組みと規制の全体像

EUDI Walletの法的基盤は、2014年に制定されたeIDAS規則(電子識別・トラストサービス規則)を大幅に改正した「eIDAS 2.0」と呼ばれる新規制です。2024326日にEU理事会が正式に採択し、同年430日に官報公布、520日に発効しました。

この規制を具体化するため、欧州委員会は複数の施行規則(Implementing Regulations)を段階的に採択しています。20241128日に採択された最初の施行規則群には、個人識別データ(PID)と電子属性証明(EAA)に関する規則(EU 2024/2977)、ウォレットの完全性とコア機能に関する規則(EU 2024/2979)エコシステム通知に関する規則(EU 2024/2980)、ウォレットの認証に関する規制(EU 2024/2981)などが含まれています。

これらの施行規則は2024124日に官報で公布され、同年1224日頃に発効しました。加盟国は、この施行規則発効から24カ月以内、すなわち2026年末までに少なくとも1つのEUDI Walletを市民に提供する義務を負います

導入スケジュールと今後の展望

EUDI Walletの導入は、以下のタイムラインで進行しています。

 

大規模パイロットプロジェクトの進捗

EU20234月から、EUDI Walletの実証実験を行う4つの大規模パイロットプロジェクトを開始しています。26加盟国に加え、ノルウェー、アイスランド、ウクライナから350以上の企業・公的機関が参加しています。

EWCEU Digital Identity Wallet Consortiumは、デジタル渡航認証(Digital Travel Credentials)に焦点を当てたプロジェクトです。全27加盟国の代表者と他国からのパートナーで構成されています。

POTENTIALは、政府サービス、銀行、通信、モバイル運転免許証、電子署名、医療の6つの分野でイノベーションを推進するプロジェクトです。

NOBIDは、北欧・バルト諸国にイタリア、ドイツが加わり、製品・サービスの支払い認証にEUDI Walletを活用するパイロットです。

DC4EUは、教育および社会保障分野におけるデジタルサービスインフラの統合を目指すプロジェクトです。

日本企業への影響と対応の方向性

EUDI Walletの導入は、EU市場でビジネスを展開する日本企業に複数の影響を及ぼします。

まず、EU顧客向けサービスの認証方式の見直しが必要になります。強力な認証を必要とするサービス(金融、通信、医療など)では、利用者の任意利用が前提のもと、EUDI Walletベースの認証受け入れが義務化されます。日本企業がEU市民向けにこれらのサービスを提供している場合、既存の認証システムにEUDI Wallet対応を追加する必要があります。

次に、KYC(本人確認)プロセスの効率化の機会があります。EUDI Walletは、政府や金融機関、教育機関などが発行した検証済み資格情報を直接提示できるため、従来の本人確認プロセスを大幅に簡素化できる可能性があります。書類のスキャンや手動確認といった工程が削減され、顧客オンボーディングの効率化とコスト削減が期待できるのです。

また、越境取引の円滑化につながります。EU全域で相互認証されるデジタルアイデンティティにより、B2B取引における相手方確認、契約締結、電子署名といったプロセスが標準化・簡素化されるでしょう。

さらに、日本とEUの間では、デジタルアイデンティティとトラストサービスに関する協力覚書が締結されており、将来的な相互運用性の可能性も視野に入れておく必要があります。

日本企業が今から準備すべきこと

まずは、EUDI Wallet対応の準備期間として位置付けるべきです。

  1. 現状把握:EU顧客向けサービスにおける現在の本人確認・認証フローを棚卸しし、EUDI Wallet対応が必要な箇所を特定することが重要です。
  2. 技術的準備:アイデンティティプロバイダー(IdP)やSSO(シングルサインオン)システムが、ウォレットベースの検証可能プレゼンテーションを受け入れられるよう、技術スタックの評価と更新計画を策定することが求められます。
  3. 規制動向のモニタリング:eIDAS 2.0の施行規則は段階的に発出されており、最新の技術仕様や認証要件を継続的に追跡することが不可欠です。
  4. パートナーシップの検討:EUDI Wallet統合の実績を持つ欧州のアイデンティティプロバイダーやコンサルティング企業との連携を検討することも有効です。

まとめ

EUDI Walletは、EUにおけるデジタルアイデンティティの標準となる可能性を持つプロジェクトです。2026年末の加盟国ウォレット提供義務化、2027年末の規制対象の民間セクターでの受け入れ義務化というタイムラインを考えると、日本企業にとって対応準備を始めるべき時期はまさに今です。

eIDAS 2.0規則とその施行規則は、技術仕様から認証要件まで詳細に定めており、早期に情報を収集し、自社のEU関連ビジネスへの影響を評価することが、将来の競争優位性につながります。デジタルアイデンティティの標準化は、一見すると技術的な話題に思えますが、顧客体験、コンプライアンス、業務効率に直結する経営課題でもあります。

本記事で紹介した情報を起点として、自社の状況に応じた具体的なアクションプランの策定を検討されることをお勧めします。


参考・出典

本記事は、以下の資料を基に作成しました。


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