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なぜ今、「AI主権」がこれほど注目されるのか
EUは2025年、「AI Continent Action Plan」を公表し、「AIの大陸」になるというビジョンを掲げました。AIファクトリーやAIギガファクトリーと呼ばれる巨大な計算基盤を整備し、クラウドとデータセンター容量を今後5〜7年で3倍に拡大する方針が示されています。
目的は、AIを成長エンジンとしつつ、過度な海外インフラ依存を避け、EU域内で安全にAIを活用できる体制を築くことです。
Linux Foundationの調査では、ソブリンAIの背景として「データ主権」「安全保障」「競争力」「文化的な適合性」が挙げられ、オープンソースソフトウェアやオープンデータが実現の鍵になるとされています。
つまり、AIはもはや単なるITツールではなく、「どこで誰が動かしているか」が経営・国家戦略そのものになりつつあります。
グローバルで進むSovereign AIの主要事例
1. 韓国×NVIDIA:25万枚超GPUのソブリンクラウド
NVIDIAは韓国政府と産業界と連携し、四半期ミリオン超(約26万枚)のGPUからなるAIインフラを構築すると発表しました。韓国政府は最新GPU5万枚規模の国家AIコンピューティングセンターに投資し、NAVER CloudやNHN Cloudなどのソブリンクラウド事業者とともに、国家レベルのAI基盤を整備します。
サムスン電子やSKグループも5万枚超のGPUを搭載したAIファクトリーを計画しており、自国語LLMや産業向けAIの開発を通じて、技術とデータの主権確保を目指しています。さらに、韓国政府と企業は「Sovereign AI Foundation Models」プロジェクトを通じて韓国語LLMの開発を進めており、言語・文化面での主権確保にも踏み込んでいます。
2. 欧州企業ニーズ:Accenture「Europe Seeking Greater AI Sovereignty」
アクセンチュアの調査によると、今後2年間でソブリンAIへの投資を増やす予定の欧州企業は60%に達し、銀行・公共サービス・ユーティリティなど規制産業でニーズが高いとされています。
一方で、ソブリンAIを「競争優位の源泉」と見なす企業は19%にとどまり、48%はコンプライアンス対応が主な動機です。アクセンチュアは、ソブリンAIを単なるリスク対応ではなく価値創造のレバーに変えるために、次のポイントを提言しています。
- CEO主導のテーマにする
- ローカルとグローバルを組み合わせたハイブリッドなエコシステムを設計する
- マルチクラウド前提でアーキテクチャを再設計する
3. 公共セクターの例:オーストラリアAPS AI Plan
オーストラリア政府は「APS AI Plan」を通じて、公務員向けに安全な生成AIを提供する「GovAIプラットフォーム」を立ち上げると発表しました。その中核となる「GovAI Chat」は、オーストラリア政府のインフラ上で稼働し、データはオーストラリア国内に保存される形で運用されると説明されています。
データ主権とセキュリティを重視した“政府版ChatGPT”のような位置づけであり、公共セクターにおけるソブリンAIの象徴的な事例といえます。
日本企業が押さえるべき3つの視点
1.「どの領域に主権性が必要か」を見極める
アクセンチュアの調査では、ソブリンな扱いが必要なAIイニシアチブやデータは平均で全体の36%にとどまるとされています。
すべてを自前で抱えるのではなく、以下を切り分けることが現実的です。
- 規制・機密性から国内/自社管理が必須な領域
- グローバルクラウドや外部AIサービスと連携してよい領域
これはIT部門だけでなく、法務・リスク・事業部門を巻き込んだ全社テーマとして設計する必要があります。
2. オープンソースを前提にエコシステムを設計する
Linux Foundationの調査では、ソブリンAIの実現手段としてオープンソースソフトウェア(81%)、オープンスタンダード(65%)、オープンデータ(65%)が重視され、94%がグローバルな協調を「不可欠」と回答しています。
ソブリンAIは「孤立」ではなく、「どのレイヤーで自律し、どのレイヤーでオープンに協調するか」を設計する話だと捉えると、日本企業にとっても現実的な戦略になります。
EUや国内のスーパーコンピュータ/クラウド、オープンソースコミュニティ(Linux Foundation, LF AI & Dataなど)、国内外ベンダーとのマルチクラウド連携などを、どう組み合わせるかが重要な設計テーマになります。
3. 「守り」だけでなく「攻め」のソブリンAIを構想する
多くの企業にとって、ソブリンAIはコンプライアンス対応や地政学リスクヘッジといった「守り」の文脈で語られがちです。しかし、Linux Foundationのレポートが示すように、データ主権と自前のAI能力は長期的な経済競争力の源泉にもなり得ます。
以下のような領域では、「どこまで自分たちでコントロールできるか」が差別化ポイントになります。
- 自社データに最適化された独自モデル
- 自社プロセスに深く統合されたAIエージェント
- 日本語・日本文化に根ざしたユーザー体験
参考・出典
本記事は、以下の資料を基に作成しました。
- NVIDIA(https://www.nvidia.com/):Zillow introduces First Street’s comprehensive climate risk data on for-sale listings across the US(2024年05月10日)(アクセス日:2025年12月10日)
https://blogs.nvidia.co.jp/blog/what-is-sovereign-ai/
NVIDIA, South Korea Government and Industrial Giants Build AI Infrastructure and Ecosystem to Fuel Korea Innovation, Industries and Jobs(2025年10月31日)(アクセス日:2025年12月10日)
https://investor.nvidia.com/news/press-release-details/2025/NVIDIA-South-Korea-Government-and-Industrial-Giants-Build-AI-Infrastructure-and-Ecosystem-to-Fuel-Korea-Innovation-Industries-and-Jobs/default.aspx - The European Commission(https://commission.europa.eu/index_en):The AI Continent Action Plan(2025年04月09日):AI Continent Action Plan COM(2025)165(アクセス日:2025年12月10日)
https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/ai-continent-action-plan - Accenture plc(https://www.accenture.com/):Europe Seeking Greater AI Sovereignty, Accenture Report Finds(2025年11月06日)(アクセス日:2025年12月10日)
https://newsroom.accenture.com/news/2025/europe-seeking-greater-ai-sovereignty-accenture-report-finds - The Linux Foundation(https://www.linuxfoundation.org/):The State of Sovereign AI(2025年08月)(アクセス日:2025年12月10日)
https://www.linuxfoundation.org/hubfs/Research%20Reports/lfr_sovereign_ai25_082525a.pdf - Australian Government Department of Finance(https://www.finance.gov.au/):Introducing the APS AI Plan(2025年11月12日)(アクセス日:2025年12月10日)
https://www.finance.gov.au/about-us/news/2025/introducing-aps-ai-plan
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