レガシーシステムで消耗していませんか？デジタルツインへの投資と実装の最前線

2025.10.22
読了時間目安 7分

フィンテックにおける“デジタルツイン”は、もはや製造業の専売特許ではありません。銀行のコア刷新、アプリケーションセキュリティ、ハイブリッドクラウドの露出管理まで、実務での活用が一気に広がっています。本稿では、直近の金融領域で進むデジタルツイン活用の全体像と実装ポイントを5分で把握できるよう整理します。

デジタルツインがフィンテックに革命をもたらす理由
フィンテック業界のデジタルツイン活用が加速する背景
今後の展望：フィンテックとデジタルツインの融合
参考・出典

デジタルツインがフィンテックに革命をもたらす理由

デジタルツインは、金融の「古い中核（レガシー）」と「新しい攻撃面・開発速度（AI時代）」という二重の課題に対し、仮想の“複製”で全体を見渡し、影響と優先度を数値で出すための実務的な答えになりつつあります。背景には、生成AIを見据えたクラウド・サイバー・データ基盤の投資加速があり（Broadridge調査）、「基盤を整えるほどツインのROIが出る」という相乗効果が働いています。
※「デジタルツインとは？」の基本について知りたい方は、こちらの記事をご確認ください。

コア刷新の“迂回路”として：アジア太平洋の銀行向けに、AccentureはPercipientのプラットフォームを買収。レガシーとモダンの両システムを“単一のリアルタイムHub”に統合する“銀行のデジタルツイン”で、全面更改なしに新商品開発やデータ活用を加速可能と説明しています。
アプリケーションセキュリティの実態把握として：Backslash Securityは**「アプリケーションコードの動的デジタルツイン（App Graph）」**で、AI生成・OSS比率増大時代の“本当に起きうる脆弱性（Triggerability）”だけを可視化・優先度付けし、パッケージのアップグレード影響も事前にシミュレート。従来のSAST/SCAの限界に対する“実務解”として採択が拡大しています。
ハイブリッドクラウドの露出管理として：XM Cyberは攻撃者視点の“Attack Graph”×デジタルツインで、クリティカル資産へ至る“攻撃経路上”のアラートに集中できるようGoogle SecOpsと統合。最高ROIの是正箇所に人的資源を配分する運用を後押しします。
投資の追い風：Broadridgeの調査では、金融はサイバー・アナリティクス・クラウドを最優先投資とし、生成AI活用の全社展開に向け“基盤が王様”という認識で支出増を計画。ツインに必要な統合データ／観測点が整備されやすい土壌ができています。

銀行の基幹システムのモダン化を実現する実例

2025年1月8日、世界的なコンサルティング企業Accentureがシンガポールのフィンテック企業Percipientを買収しました。この買収の目玉となったのが、銀行向けのデジタルツイン技術プラットフォームです。
Percipientのプラットフォームは、銀行のレガシーシステムとモダンシステムの仮想的な複製物として機能し、それぞれのデータを統合して単一のリアルタイムハブに統一する仕組みを持っています。これにより、銀行は既存システムを大幅に変更したり業務を中断したりすることなく、新しい製品やサービスをより迅速に開発できるようになります。

Accentureのアジア太平洋地域金融サービス責任者である中野雅史氏は「銀行の基幹システムは数十年前のもので、複雑に絡み合ったコードは維持コストが高く、ビジネスの柔軟性を低下させ、高度に専門化された人材を必要とする」と指摘しています。デジタルツイン技術は、このような課題を解決する鍵となるのです。

Percipientの創業者兼CEOであるナヴィン・スリ氏は、「Percipientのプラットフォームとアクセンチュアのコアバンキングおよび技術能力を組み合わせることで、銀行がレガシーシステムをよりシームレスに変革し、モダナイゼーションに伴うリスクを低減しながら、俊敏性とスピードを獲得できる」と語っています。

AI時代のアプリケーションセキュリティへの応用

デジタルツイン技術の活用は、基幹システムだけにとどまりません。アプリケーションセキュリティの分野でも革新的な変化を起こしています。

イスラエルのBackslash Securityは、AI時代に対応した「App Graph」と呼ばれる業界初の動的デジタルツインをアプリケーションコード向けに開発しました。この技術は、過去12カ月で同社の売上を4倍に、顧客基盤を150%増加させる原動力となりました。
現代のソフトウェア開発では、コードベースの70%から90%がオープンソースコンポーネントで構成されており、AI駆動のコーディングツールが前例のない規模とペースでコードを生成している状況です。従来のセキュリティツールでは、このスピードに対応できなくなっています。

Backslash SecurityのCEO兼共同創業者であるシャハル・マン氏は「AIが生成したコードとオープンソースコードは前例のないリスクをもたらしており、セキュリティチームは昨日の問題に対処するために設計されたツールに縛られている」と述べ、デジタルツイン技術による新しいアプローチの必要性を強調しています。

実際の導入事例として、プロジェクト管理プラットフォームのmonday.comでセキュリティ担当副社長兼CISOを務めるガイ・ハヴーシャ氏は「Backslashのアプリグラフは、依存関係の到達可能性評価により修復作業の優先順位付けを支援している」と評価しています。

ハイブリッドクラウド環境のセキュリティ強化

金融機関がクラウドへの移行を進める中、セキュリティの複雑性も増しています。ここでもデジタルツイン技術が重要な役割を果たしています。

サイバーセキュリティ企業XM Cyberは、デジタルツインアプローチを使用してハイブリッドクラウド環境全体のアタックサーフェス（攻撃対象領域）を継続的に可視化するソリューションを提供しています。2025年9月には、Google Cloudとのパートナーシップを深化させ、金融サービス、ヘルスケア、公共部門などの欧州規制業界向けに、ソブリンクラウドソリューションの一環としてXM Cyberを提供することを発表しました。

XM Cyberの戦略・イノベーション担当上級副社長であるメナヘム・シャフラン氏は「私たちのプロアクティブな脅威情報とGoogle Cloudの幅広いセキュリティポートフォリオを組み合わせることで、企業は継続的なセキュリティへの包括的なアプローチを実現できる」と語っています。

フィンテック業界のデジタルツイン活用が加速する背景

金融サービス企業は、生成AIの基盤を整えるため、クラウド、サイバーセキュリティ、データプラットフォームへの投資を倍増させています。デジタルツイン技術は、これらの投資を最大限に活用するための重要なツールとなっています。

Broadridge Financial Solutionsが実施した調査によると、回答者の72%が生成AIへの大規模投資を計画しており、80%以上がサイバーセキュリティ、アナリティクス、クラウドプラットフォームを最優先の支出カテゴリーとして挙げています。

しかし、課題も残されています。銀行組織のほぼ半数がデータサイロに苦しんでおり、5分の2がデータ品質の問題を報告しています 。デジタルツイン技術は、こうしたデータに関する課題を克服し、レガシーシステムとモダンシステムを橋渡しする役割を果たします。

今後の展望：フィンテックとデジタルツインの融合

デジタルツイン技術のフィンテック業界への活用は、まだ始まったばかりです。基幹システムの近代化、アプリケーションセキュリティの強化、ハイブリッドクラウド環境の保護など、さまざまな領域で実用化が進んでいます。

金融機関がデジタルトランスフォーメーションを加速させる中、デジタルツイン技術は単なる技術的な解決策ではなく、ビジネスの成長とイノベーションを促進する戦略的な投資となっています。既存システムを保ちながら新しい価値を創出できるこの技術は、リスクを最小限に抑えつつ、顧客体験の向上と業務効率化を同時に実現する道筋を示しています。

今後、AI技術の進化とともに、デジタルツイン技術はさらに洗練され、金融業界のあらゆる側面で活用されていくでしょう。変革を求める金融機関にとって、デジタルツイン技術は見逃せない選択肢となっています。