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結論:AI活用の鍵は「データギャップの理解」と「AIaaSの戦略的活用」
AI導入を成功させるためには、自社が抱える「データギャップ」を正しく認識し、その上で「AI as a Service(AIaaS)」のようなサービスのメリットを最大限に引き出しつつ、リスクを適切に管理することが不可欠です。これらの要素を理解することが、AI時代における企業の競争力を左右すると言っても過言ではありません。
データギャップはAI実装を阻む1つの壁
「データギャップ」とは、必要なデータと実際に利用可能なデータとの間に存在する差異や不足のことを指します。AI活用においても、必要なデータの質・量・形式と、実際に組織が保有するデータとの間に存在する大きな乖離を指します。金融庁のアンケート調査では、約半数の金融機関が「モデル構築等のために十分な学習データの確保」や「学習データの品質管理」を主要課題として挙げています。AI導入において深刻な「データギャップ」に直面していることが明らかになりました。
なぜデータギャップが発生するのか
このギャップが生じる主な理由は3つあります。
- 既存のデータベースがAI活用を前提に設計されていない:多くの組織では、従来の業務システムで蓄積されたデータがサイロ化(組織やシステムが部門や部署ごとに分断され、連携が取れない状態)しており、AI学習に適した形で統合・整理されていません。ある金融機関からは「RAGでの活用など社内データをAIで活用する前提でデータベースが構築されておらず、社内での合意形成やベンダーとの調整など対応に時間とコストがかかる」「統合クラウドデータ基盤と他のデータベース間のシームレスな接続が課題」との声が上がっています。
- 非構造化データの処理能力不足:テキスト、画像、音声などの非構造化データは組織内に大量に存在しますが、これらをAI学習用に変換・整理するリソースが不足しています。「まずExcelベースの業務プロセスから脱却する必要がある」といった基礎的な課題も残されています。
- データの質の問題:古い規程が残存していたり、不正案件のような希少事例のデータが不足していたりと、学習データとしての品質確保が困難な状況があります。
AI as a Serviceが切り開く新たな可能性
こうしたデータギャップの課題に対し、「AI as a Service(AIaaS)」というアプローチが注目を集めています。AIaaSとは、AI機能をクラウドサービスとして提供し、組織が独自にAIインフラを構築することなく、必要な機能を利用できる仕組みです。
金融庁のディスカッションペーパーでは、外部事業者が提供する生成AIサービス(SaaSとして導入)を活用する金融機関が多いことが示されており、当時のアンケートの結果では、生成AIを導入している金融機関の約半数が、汎用の生成AIサービスをそのまま活用しています。事前学習済みのLLM(大規模言語モデル)を活用することで、自社でモデルを一から構築する必要がなく、「初期投資」や「専門スタッフの確保」といったハードルが大幅に下がる利点があります。
AIaaSがもたらす3つのメリット
AIaaSの活用には、組織にとって大きな利点があります。
- 導入の容易さ:従来型AIでは、データサイエンティストやエンジニアなど専門知識を持った職員が必要でしたが、AIaaSでは必要最小限の設定で汎用的な機能をすぐに活用できます。実際、文書の要約・翻訳といった生成AIの汎用的なユースケースは、既に7割超の金融機関が導入済みという結果が出ています。
- スケーラビリティの高さ:クラウドベースのサービスであるため、利用規模に応じて柔軟にリソースを調整でき、小規模な試行から大規模な本格導入まで段階的に展開できます。
- 最新技術へのアクセス:AIaaSプロバイダーは継続的にモデルを更新・改善しており、利用組織は常に最先端の技術を活用できます。基盤モデルのアップデートや新機能の追加も反映されるため、技術的な陳腐化リスクを回避できます。
AIaaS実装における3つの重要課題
しかしAIaaS活用には、克服すべき課題も存在します。
- セキュリティとプライバシーの確保:自社の重要なデータを外部のサービスに預けることになるため、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクは常に考慮しなければなりません。特に金融分野では、顧客情報や業務上の重要情報を扱うため、連携するサービスのセキュリティレベルやデータ管理体制に注視しましょう。
- 外部依存リスクの管理:FSB(金融安定理事会)は、サードパーティ依存および特定のサービスプロバイダーへの集中を、システミック・リスク(ある企業の支払不能などの問題が、他の企業・市場・システム全体に波及するリスク)を増大させる可能性がある脆弱性として指摘しています。
- 説明可能性の担保:特に生成AIでは、膨大なパラメータを用いた複雑な学習プロセスにより、「なぜその回答になったのか」を明示的に示すことが極めて困難になります。
※類似用語解説:「説明可能性」は「Explainable AI (XAI)」とも表され、AIの判断理由を人間が理解できるように説明する技術や概念のことです。「ブラックボックス化」は、AIの判断プロセスが不透明であることからAIの出力結果を理解できない状態を指します。
今後の展望と組織に求められる対応
AI技術の進化は加速度的であり、データギャップの課題も、AIaaSの可能性も、今後さらに変化していくことが予想されます。
以上を踏まえると、組織に求められる対応は次の通りです。まず、経営層の主体的な関与のもと、AI活用を重要な経営課題として位置づけることです。次に、リスクベース・アプローチにより、用途に応じた適切なリスク管理を行いながら、積極的にチャレンジしていくことです。さらに、データ基盤の整備を継続的に進めながら、AIaaSなどを活用した段階的な導入を進めることです。最後に、業界横断的な取り組みや外部との連携を通じて、知見の共有と人材育成を図ることです。
金融庁は、「リスクをコントロールしつつ、我が国の金融分野におけるイノベーションが世界をリードして発展していくことができる環境整備に全力を尽くしていく」と宣言しています。データギャップという現実的な課題に向き合いながら、AIaaSという新たなアプローチを検討・活用することで、組織はAIがもたらす変革の波に乗ることができるでしょう。
参考・出典
本記事は、以下の資料を基に作成しました。
- 株式会社三菱 UFJ 銀行(https://www.bk.mufg.jp/):「Sakana AI 株式会社とのパートナーシップ契約締結について」(2025年5月19日)(アクセス日:2025年08月20日)
https://www.bk.mufg.jp/news/news2025/pdf/news0519.pdf - 金融庁(https://www.fsa.go.jp/):AI ディスカッションペーパー(第 1.0 版)(アクセス日:2025年08月20日)
https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250304/aidp.pdf
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