700人分の業務を担うチャットボットが示すKlarnaのAI革命：効率×体験×上場ストーリー

2025.09.12
読了時間目安 4分

2025年9月10日、スウェーデン発のフィンテック企業Klarnaがニューヨーク証券取引所に「KLAR」というティッカーで正式に上場を果たしました。この成功の背景には、同社の徹底したAI戦略があります。

驚異的な効率化を実現したAIアシスタント
金融サービス業界への示唆
今後の展望
参考・出典

驚異的な効率化を実現したAIアシスタント

Klarnaが2024年2月に公開したデータによると、同社のAIアシスタントは導入からわずか1か月で230万件の会話を処理し、全カスタマーサービスチャットの3分の2を担当しました。これは700人のフルタイム従業員に相当する業務量です。

特筆すべきは、顧客満足度が人間のエージェントと同等レベルを維持しながら、問題解決時間を11分から2分未満に短縮したことです。さらに、より正確な問題解決により、再問い合わせ件数が25%減少しました。このAIアシスタントは35以上の言語に対応し、23の市場で24時間365日稼働しており、2024年だけで4,000万ドルの利益改善をもたらすと予測されています。

社内業務にも浸透するAI活用

顧客向けサービスだけでなく、Klarna社内でもAI革命が進行しています。2024年5月の発表によれば、従業員の87%が日常業務で生成AIを活用しており、特に非技術部門での採用率が高いのが特徴です。コミュニケーション部門で93%、マーケティング部門で88%、法務部門で86%という高い採用率を記録しています。

社内向けAIアシスタント「Kiki」は、2023年6月の導入以来、25万件以上の問い合わせに対応し、1日あたり2,000件の質問に1〜5秒で回答しています。法務部門では、ChatGPTを活用して契約書の作成時間を1時間から10分に短縮するなど、具体的な生産性向上が報告されています。

同社の従業員数は、約2年で約2,500人減少しました。具体的には、2023年6月頃の約5,500人から2025年6月頃には約3,000人まで減少したのです。CEOのセバスチャン・シェミャトコウスキー氏は、この人員削減とAI活用の組み合わせにより、同社の効率性が大幅に向上したと説明しています。

AI導入の明暗：人間の価値の再定義

興味深いことに、Klarnaは2025年6月4日、人間のカスタマーサービス担当者を再び採用することを発表しました。シェミャトコウスキーCEOは、「人間によるカスタマーサービスは今後VIPサービスとして位置づけられる」と述べ、手作りの服が機械製より高く評価されるように、人間との対話も付加価値として残り続けると予測しています。

同社は、AIが退屈な手作業を自動化する一方で、複雑な問題や感情的なサポートが必要な場面では人間の価値が高まるという、バランスの取れたアプローチを採用しています。

OpenAIとの戦略的パートナーシップ

KlarnaのAI戦略の中核にあるのが、OpenAIとの緊密な連携です。シェミャトコウスキーCEOは積極的にOpenAIとの協業を推進しました。同社は欧州企業として初めて、また世界のフィンテック企業として初めてChatGPTプラグインを開発した企業となりました。さらに、OpenAIのCOOであるブラッド・ライトキャップ氏は、Klarnaを「AI導入と実用化においてパートナーの中で最先端を行く」と評価しています。

2024年9月には、AIアシスタントに新機能を追加し、チャットベースのショッピング体験を提供開始しました。ユーザーは製品の検索、比較、レビューの確認、価格履歴の参照などを、すべて単一のチャットインターフェースで行えるようになりました。

金融サービス業界への示唆

Klarnaの事例は、AI導入が単なるコスト削減ツールではなく、ビジネスモデル全体を変革する戦略的投資であることを示しています。同社は1,200もの小規模ソフトウェアサービスの利用を停止し、SalesforceやWorkdayなどの大手ベンダーとの契約も終了させ、データの統合とAI活用の最適化を図りました。
同社の成功は、金融サービス業界全体にAI活用の可能性と、人間とAIの協働の重要性を示す貴重な事例となっています。