銀行×エージェントAIも待ったなし:1700億ドル利益減リスクの正体と米銀幹部の約7割の確信

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銀行がAI、とくにエージェント型AIの導入を先延ばしにすると、世界の銀行利益プールは約1700億ドル(約9%)縮小しかねないという、衝撃的な調査発表がありました。先行組は逆にROTEを最大+4ポイント押し上げる余地があり、明暗は「導入の速度と精度」で分かれます。
更に、米国の銀行幹部の実に70%がエージェント型AIが業界の運営方法を根本的に変える「ゲームチェンジャー」になると予測しています。

本記事ではこれら2つのAIショックを解説しながら、銀行業界が直面するAIの「真の脅威」と「未来の勝者」を分ける分岐点について、専門用語の解説も踏まえながら解説します。

AI導入が遅ければ“1700億ドル”の利益プール損失

2025年10月23日、マッキンゼー・アンド・カンパニーの「Global Banking Annual Review 2025」にて、エージェント型AIに対する銀行業界の姿勢を明らかにする発表がありました。銀行がビジネスモデルを適応させるために再構築しなければ、今後10年程度で、世界の銀行の利益プールは1,700億ドル(9%)減少する可能性があるとのことです。

この1,700億ドルの減少は、2030年に予測される世界の銀行利益プール約1.8兆ドルに基づいて、2030年時点のドルで表現されており、この利益プール減少の結果、平均的な有形自己資本利益率(ROTE)は1〜2パーセンテージポイント低下し、多くの銀行が自己資本コストを下回る可能性があります。

ROTEとは:銀行が保有する自己資本(株主から預かった資金や利益の積み重ね)のうち、実体のある資本(有形自己資本)をどれだけ効率的に使って利益を上げているかを示す指標です。
つまり、銀行が株主に対して「これだけの資本を使って、これだけの利益を出しました」と説明するための、企業の収益性の成績表のようなものです。ROTEが高ければ高いほど、その銀行は資本を効率的に活用し、高い収益を上げていると評価されます。

真の脅威:なぜ損失なのか?マッキンゼーの見解

マッキンゼーは、銀行の伝統的な収益モデルが「顧客の慣性(イナーシャ)」——つまり、「面倒だから」「よくわからないから」と、無利子や低金利の口座にお金を預けっぱなしにしたり、高金利のカードローンを使い続けたりする顧客の行動—によって支えられてきたと分析しています 。

エージェント型AIは、この「慣性」を破壊します 。AIエージェントは24時間365日、顧客のために働き、自動で預金や負債の最適化のような行動を実行します。
マッキンゼーの試算によれば、この「AIによる慣性の破壊」が現実となった場合、銀行業界が失う利益は甚大です。これらが積み重なった結果が、銀行業界全体での「1700億ドル(利益の9%)の損失リスク」と捉えています。
つまり、銀行業界が直面するAIの「真の脅威」とは、顧客がエージェント型AIを活用することによって、世界の銀行業界が失う利益が「1700億ドル(利益の9%)」となる、ことです。

AI導入のパイオニア銀行はどうなる?

AI導入の先行組(パイオニア)においては「ROTE(Return on Tangible Equity:有形自己資本利益率)」が、最大で4ポイント上昇する可能性があることを示しています。具体的には、AI導入によるコスト削減の恩恵をいち早く享受することで、その利益を「顧客の慣性を破壊する側」のサービス(=自社版AIエージェント)開発などに再投資できるためです 。

世界の銀行業界の平均ROTEは、2024年時点で10.3パーセントでした(20年ぶりの高水準でしたが、自己資本コストをわずかに上回る程度です)ので、ROTEが「最大4パーセンテージポイント増加」するということは、銀行の収益効率が劇的に向上することを意味します。
つまり、平均的な銀行と比べてROTEを大幅に改善し、数年早く15%〜20%の純生産性向上機会を獲得し、再投資のためのキャッシュフローを生み出すことが期待されます。これにより、長期的な市場シェアの優位性獲得も見えてくるでしょう。

米国銀行幹部の70%がAIは“ゲームチェンジャー”と回答

なぜ銀行の経営層は、これほどまでにAIを重要視しているのでしょうか。

2025年10月27日、音声および会話型AIの世界的リーダーであるSoundHound AI, Inc.(Nasdaq: SOUN)は、エージェント型AIに対する銀行業界の姿勢を明らかにする新たな調査を発表しました。
Arizentが実施した業界専門家を対象としたこの調査では、調査対象となった201人の米国の銀行幹部のうち、70%がエージェント型AI技術を「重大な影響がある」または「業界の未来に深刻な影響を与えるゲームチェンジャー」だと回答しました 。さらに、71%が「競争力を維持するためにはAIエージェントへの投資が不可欠だ」と考えています 。

彼らがAIに期待する主な活用先は、以下の通りです。

  • 1位:顧客サービス/コールセンター (59%)
  • 2位:従業員の効率性向上 (39%)
  • 3位:不正/リスク管理 (37%)

多くの幹部は、AIが顧客体験 (73%) と従業員体験 (79%) を向上させる中核的な価値を持つと認識しています 。

また、大手銀行の 5 行中 3 行以上 (64%) がエージェント AI をテストしているか、積極的に導入し、 小規模な機関では、導入またはテストを実施する可能性が大幅に低かった(38%)と回答。規模の大きさに応じて導入に大きな差があることも分かります。

導入障壁とインセンティブ

エージェント型AIへの明確な関心にもかかわらず、銀行は導入に向けてまだ慎重な姿勢を保っていることも分かりました。主な懸念事項としては、以下のものがあります。

  • セキュリティとコンプライアンス(51%)
  • 自律性に関する懸念(51%)
  • レガシーシステムとの統合(46%)
  • コスト(42%)

しかし、マッキンゼーの分析によれば、これらの「導入リスク」を恐れて行動を遅らせることこそが、銀行にとって最大の経営リスクとなる可能性が高いのです。

未来の勝者:銀行は「AIの脅威」から「AIの提供者」へ変われるか

エージェント型AIは銀行業界を根本から変革します 。経営層が懸念するセキュリティやコンプライアンスの課題は重要ですが、AIが顧客の「慣性」を破壊する未来は避けられませんし、米国銀行幹部の70%はAIは“ゲームチェンジャー”と回答しています。

問われているのは、銀行がその変革の「対象」であり続けるのか、それとも自らが顧客に最高のAIエージェントを提供する「主体」へと変貌できるのか、という点です。AIを活用した「精密な戦略」こそが、このAI格差時代を生き抜く唯一の鍵となるでしょう。


参考・出典

本記事は、以下の資料を基に作成しました。


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