金融DXの主戦場は「AIエージェント×デジタルマネー」へ:MUFG×Visa×金融庁から読む最新動向

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結論から言えば、いま金融DXの最前線では「AIエージェントが動かし、デジタルマネーが流れる」世界が一気に現実化しつつあります。
日本のメガバンクも、グローバル決済プレイヤーも、規制当局も、同じ方向を向き始めました。
本記事では、「金融機関内部のDX(AIエージェントで業務を変える)」「2.顧客接点のDX(AIが代わりに“選んで・支払う”)」「3.お金そのもののDX(ステーブルコイン&デジタル資産規制)」の3つの最新動向を、日本人ビジネスパーソン目線で整理します。

動向1:金融機関のDXは「AIエージェント前提」の業務改革フェーズへ

MUFG×OpenAI:3.5万人行員がChatGPT Enterpriseを日常業務で利用

三菱UFJ銀行は、OpenAIとの戦略的コラボレーション契約を締結し、2026年1月以降、全行員約35,000人がChatGPT Enterpriseを日常業務で使える体制へ移行すると発表しました。

対象業務は、

  • 社内文書の作成
  • 調査対応
  • 顧客対応
  • 分析業務

など幅広く、行員がより付加価値の高い判断・企画・対話に集中できる環境づくりを狙っています。

さらに、全社的なAI浸透運動「Hello, AI @MUFG」を通じて、AI活用をリードする「AIチャンピオン」人材の育成も進めるとしています。

これは単なるツール導入ではなく、

  • 人材育成(AIチャンピオン)
  • 業務プロセス刷新
  • リテール向け新サービス創出(後述のAIコンシェルジュなど)

を一体で回す、“AI-Nativeな企業”への変革プログラムと言えます。

世界の金融機関も「AIエージェント+クラウド」にシフト

キャップジェミニの「World Cloud Report in Financial Services 2026」によれば、世界の銀行・保険会社はすでに顧客向けプロセスをAIエージェントにどんどん置き換えつつあると指摘されています。

  • 銀行がAIエージェントをクラウドネイティブに本格展開している業務
    • 顧客サービス:75%
    • 不正検知:64%
    • ローン審査:61%
    • オンボーディング(口座開設など):59%
  • 経営陣の認識
    • AIエージェント導入で2028年までに最大4,500億ドルの経済価値が見込める
    • 33%の金融機関が自社開発のAIエージェントを構築中
    • 約半数が「AIエージェントを監督する新しい職種」を創出

一方で、AIエージェントをスケール導入できている企業はまだ10%にとどまり、約80%はアイデア検討〜PoC段階というデータも示されています。

つまり今は、「AIエージェントを入れるかどうか」ではなく、 「どの業務から、どうスケールさせるか」を決めて動き出すフェーズに来ていると言えます。日本のMUFGの動きは、このグローバル潮流と完全に足並みが揃っていると言えるでしょう。

動向2:顧客の「買い物・支払い」はAIが代行する ― Visa Intelligent Commerce

AIエージェントが“探して・選んで・支払う”Agentic Commerce

Visaはシンガポール・フィンテックフェスティバル2025に合わせて、「Visa Intelligent Commerce」をアジア太平洋全域に拡大し、2026年初頭からAIコマースのパイロットを開始する計画を発表しました。

Visa Intelligent Commerceは、

  • 統合API+パートナープログラムのスイート
  • トークナイゼーション(カード情報のトークン化)
  • 認証・支払い指示・トランザクションシグナル
    を組み合わせ、AIエージェントが利用者の代わりに安全かつ透明に決済できるようにするインフラです。

Visaによれば、

  • 過去1年でAIからのECサイトトラフィックは4,700%増
  • AIで買い物したユーザーの85%が「体験が良くなった」と回答

とされ、既に「AIに選ばせて買う」行動は広がり始めています。

Trusted Agent Protocol:AIエージェントを“信頼できる購入者”として扱う仕組み

AIトラフィックの急増に対し、店舗側から見れば「このアクセスは本当に顧客のためのAIなのか?悪質ボットでは?」という不安が生まれます。

そこで導入されるのが、Trusted Agent Protocolです。

  • AIエージェントごとに暗号署名付きのIDを付与
  • マーチャント側は「信頼済みエージェント」かどうかを判別可能
  • 悪質ボットを排除しつつ、正当なAIエージェントの取引はスムーズに通す

という仕組みで、「人間と同じくらい安心してAIエージェントからの購入を受け付けられる世界」を目指しているとされています。

Visaは、Ant International・LG Uplus・Microsoft・Perplexity・Stripe・Tencentなどと連携し、アジア太平洋でのエージェントコマース普及を進めています。

MUFGも「Apps in ChatGPT」「Agentic Commerce」に対応

MUFGはリテールサービスブランド「エムット」で、以下4つの取り組みを進めるとしています。

  1. MUFGアプリ内AIコンシェルジュ:各アプリに最新AIを搭載し、質問対応だけでなく、利用履歴に応じたパーソナライズサポートを提供。将来的にはアプリ横断でお客さまの取引全体を把握。
  2. 申込専用AIチャット「エムットクイックスタート」:口座開設〜各種サービス申込まで、AIがレコメンド&チャットで一気通貫サポート。
  3. Apps in ChatGPT連携:OpenAIの「Apps in ChatGPT」にMUFGアプリを接続し、ChatGPTとの対話の流れの中で家計管理や資産運用相談を完結できる金融体験を検討。
  4. Agentic Commerce Protocolへの対応:ChatGPT上で検索〜購入まで完結する「Agentic Commerce」規格に準拠し、ChatGPT内で選ばれる決済手段の一つとしてMUFGの決済サービスを実装することを目指しています。

Visaのグローバル決済インフラと、MUFGの国内金融サービスが、 「AIエージェントが当たり前に買い物する時代」を前提に再設計され始めている、というのが現在地です。

動向3:お金そのもののDX ― ステーブルコインとデジタル資産規制

金融庁PIP:メガバンク連合によるステーブルコイン実証

日本の金融庁は、2017年から「FinTech実証実験ハブ」を運営してきましたが、2025年11月に決済分野に特化した「決済高度化プロジェクト(PIP: Payment Innovation Project)」を新設しました。

その初案件として支援が決定した実証実験が、以下複数の銀行グループが協調してステーブルコイン(電子決済手段)を発行する際の規制・実務対応の検証です。

  • みずほ銀行
  • 三菱UFJ銀行
  • 三井住友銀行
  • 三菱商事
  • 三菱UFJ信託銀行
  • Progmat社

実証では、「サービス設計に応じた適法・適切な規制対応が可能か」、「一般利用者に提供する場合の法令解釈・利用者保護の論点整理」をし、その結果を金融庁サイトで公表予定とされています。
日本でも、「銀行が発行するステーブルコイン」を前提とした 決済インフラのDXが、規制当局とメガバンク連合の“協働プロジェクト”として動き出している状況です。

SEC「Project Crypto」:デジタル資産のルールを“整理する”方向へ

一方、米国ではSECが「The SEC’s Approach to Digital Assets: Inside “Project Crypto”」というスピーチで、デジタル資産への、以下新しいアプローチを示しました。

  • Howeyテストに基づく「トークンタクソノミー(分類)」の整備
  • 多くの「デジタルコモディティ」「デジタルコレクティブル」「デジタルツール」は原則として証券ではなく、「トークン化された証券」のみを証券として扱う方向性
  • 暗号資産規制を、恐怖ではなく「常識とフェアネス」に基づいて整理する姿勢

SEC内のCrypto Task Forceとも連携しつつ、イノベーションと投資家保護を両立する枠組み作りを進めています。

日本のステーブルコイン実証と、米SECのデジタル資産整理の動きは、方向性として「何を証券とみなすか」「どのようなデジタル資産なら安心して一般ユーザーに届けられるか」を明確にしようとする点で共通しています。これは、金融DXにおける“お金そのもののDX”を支えるルール作りと捉えることができます。

まとめ:金融DXの次の主戦場は「AIエージェント×デジタルマネー」

改めて整理すると、金融DXの最新トレンドは、以下3層で同時進行しています。

  1. 社内DX:AIエージェントで業務を再設計(MUFG×OpenAI、Capgeminiレポート)
  2. 顧客体験DX:AIが探して・選んで・支払うAgentic Commerce(Visa Intelligent Commerce、MUFGエムット構想)
  3. マネーのDX:ステーブルコイン&デジタル資産のルール整備(金融庁PIP、SEC Project Crypto)

いまこのタイミングで、 「自社のどの部分をAIエージェントに任せるか/どのようなデジタルマネーと繋がるか」を考え始めた企業こそが、数年後の競争優位を手にするはずです。


参考・出典

本記事は、以下の資料を基に作成しました。


AI利用について

本記事はAIツールの支援を受けて作成されております。 内容は人間によって確認および編集しておりますが、詳細につきましてはこちらをご確認ください。

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