ソブリンクラウドとは?AWSから日本の最新動向まで解説

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ソブリンクラウドとは、「データの所在・管理・統治を、特定の国や地域の主権の下で保証することを目的としたクラウド基盤」です。
単にデータを国内に保存するだけでなく、運用主体や管理権限、適用される法制度までを含めて明確に管理されている点が大きな特徴です。
従来のグローバルクラウドでは、データが国内にあっても、運営企業の本社所在地の法律や国外当局の影響を受ける可能性がありました。これに対し、ソブリンクラウドは、データの保存場所・アクセス権限・運用体制・法的支配を特定の国や地域に限定することで、外部からの不透明な干渉リスクを抑えます。
こうした特性から、政府機関や公共インフラ、金融・医療など、高い信頼性と主権性が求められる分野を中心に、ソブリンクラウドへの関心が高まっています。

なぜ今、ソブリンクラウドが注目されているのか

ソブリンクラウドが注目を集めている背景には、主に3つの理由があります。
いずれも一時的なトレンドではなく、クラウド活用の前提そのものが変わりつつあることを示しています。

  1. データ主権・法規制の強化
    欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)などの影響により、政府や公共分野を中心に、国外法の影響を受けないIT基盤が求められています。その結果、データの保存場所だけでなく、運営主体や法的支配まで含めた主権確保が重視されるようになりました。
  2. 安全保障・経済安全保障の観点
    クラウドは社会インフラとなり、有事でも安定稼働する可用性や、特定の国や企業に依存しない独立性が国家的な課題として認識されています。
  3. 政府クラウドの本格導入
    日本でも「ガバメントクラウド」が本格化し、コストだけでなく、主権性・信頼性・透明性を重視したクラウド選定が進んでいます。この動きが、民間企業にもソブリンクラウドへの関心を広げています

ソブリンクラウドと従来クラウドの違い

ソブリンクラウドと従来のグローバルクラウドの違いは、単なる「データの置き場所」だけではありません。運営の主体や法的な支配関係、想定される利用目的まで含めて設計思想が大きく異なります。

以下は、その違いを整理した比較です。

 

運営主体の違い

グローバルクラウドは多国籍企業が一元的に運営し、意思決定や管理権限が国外にある場合があります。一方、ソブリンクラウドは地域内の法人や統治体制が運営を担い、運用面でも主権性を確保します。

法的支配の違い

従来のクラウドは、データが国内にあっても事業者本社の法律の影響を受ける可能性があります。ソブリンクラウドは、適用法を地域内の法体系に限定する点が特徴です。

主な用途の違い

グローバルクラウドは幅広い民間用途を想定しています。一方、ソブリンクラウドは政府や重要インフラなど、高い主権性が求められる分野に適しています

AWS 欧州ソブリンクラウドの動向

Amazon Web Services(AWS)は 「AWS European Sovereign Cloud」 を発表し、欧州におけるソブリンクラウド戦略を明確に打ち出しました。これは新リージョンの追加ではなく、構築・運用・管理・セキュリティをEU域内で完結させる独立したクラウド基盤です。

従来、データがEU内にあっても運営やガバナンスが域外にある点が課題とされてきましたが、本構想では主権性を設計段階から組み込むアプローチが採られています。

主な特徴は以下の3点です。

  • 欧州法人による運営・ガバナンス
    クラウドの運営主体をEU域内の法人に限定し、意思決定や管理権限も欧州側で完結させる体制を構築する。
  • EU域内完結の運用とデータ主権
    運用やデータアクセスをEU居住者に限定し、インフラを物理的・論理的に分離することで、高度な自律性と規制遵守を実現する。
  • ソブリン・リファレンス・フレームワークの導入
    技術面に加え、運用・組織・法務まで含めて主権性を評価・設計できる枠組みを明確化する。

これによりAWSは、EU法準拠の独立運営と厳格なデータ主権保護体制を明確に打ち出し、政府機関や規制産業のクラウド活用を大きく前進させました

ソブリン・リファレンス・フレームワークとは

ソブリン・リファレンス・フレームワークは、AWSが提示した、ソブリンクラウドの主権性を体系的に評価・設計するための指標です技術面に限らず、技術・運用・法務・組織の4レイヤーから主権性を捉える点が特徴です。

従来の「データの保存場所」中心の判断に代わり、管理主体、意思決定の所在、適用法制度まで含めて評価対象としています。これにより、主権性を客観的に説明・検証できる基準として整理しています。

主な要素は以下の通りです。

  • 管理者アクセスの地域限定:管理者権限を地域内に限定し、域外からの特権アクセスを排除する設計を明確にする。
  • 運用権限の地域集約:日常運用や障害対応、設定変更などの権限を特定地域の組織に集約し、統治の一貫性を確保する。
  • データ移転の可視化:データの移動状況を把握・説明できる状態を保ち、不透明なデータ流通を防ぐ。
  • 監査・透明性の確保:外部監査や第三者評価に耐えうる体制を整え、主権性を継続的に証明できる仕組みを構築する。

このフレームワークは、「ソブリンクラウドかどうか」を宣言するためのものではなく、利用者が自ら判断するための基準を提供する点に意義があります。政府機関や規制産業にとって、説明責任を果たすうえで実用性の高い考え方と言えるでしょう。

日本におけるソブリンクラウドの現在地

日本では、欧州のように「ソブリンクラウド」という言葉が前面に使われているわけではありません。その代わり、「ガバメントクラウド」という枠組みの中で、主権性や信頼性を重視したクラウド基盤の制度設計が進められています。

デジタル庁は、政府情報システムの刷新にあたり、単なるクラウド移行ではなく、安全・安心に長期運用できる基盤の確立を重視しています。その中核となっているのが、次の3つの考え方です。

  • セキュリティ基準の統一
    省庁ごとにばらついていたセキュリティ要件を整理・標準化し、政府全体として一定水準以上の安全性を確保する方針が示されている。
  • 主権性・信頼性の確保
    データの取扱いや運用体制について、国として説明責任を果たせることを重視し、透明性の高いクラウド利用を前提としている。
  • マルチベンダー戦略
    特定の事業者への過度な依存を避けるため、複数のクラウド事業者を採用可能とする設計が採られている。

このアプローチは、欧州のように「主権」を前面に押し出す形とは異なりますが、結果として目指している方向性はソブリンクラウドと非常に近いと言えます。

日本では、用語よりも実務と制度を重視しながら、段階的に主権性を担保していく現実的な進め方が選ばれているのです。

富士通・国内ベンダーの取り組み

富士通は、データ主権要件を満たすクラウド基盤を用い、電力状況に応じて地域間で処理を分散させる実証実験を進めています。 これは、AI普及に伴う電力課題の解決と、災害に強い強靭なインフラ構築を目指す取り組みです。

なかでも注目されているのが、東京大学との共同実証です。このプロジェクトでは、電力系統の状況に応じて処理するワークロードを地域間で切り替える仕組みが検証されました。電力需給や災害リスクを考慮し、処理拠点を国内の別地域に移すことで、システム全体の安定稼働を維持するという考え方です。

この実証が示したのは、技術的な可能性にとどまりません。「データや処理を国内にとどめたまま、レジリエンス(回復力)を高められる」という点は、ソブリンクラウドの思想と高い親和性があります。
特定のデータセンターや地域に依存しない設計は、災害リスクの高い日本において、実務的にも大きな価値を持ちます。

このように、日本の国内ベンダーは、海外技術も柔軟に取り入れつつ、「運用の国内統制 × 分散 × 信頼性」を確保する実用的なソブリンクラウド基盤の構築を進めています。 今後、こうした現実解となる取り組みが、政府システムや重要インフラ分野へ広く普及する可能性は高いでしょう。

民間領域での広がり:CrowdStrikeの事例

民間領域、とくにセキュリティ分野では、CrowdStrikeが地域クラウドを活用したデータ主権対応を積極的に強化しています。

これは、グローバルに事業を展開するセキュリティ企業であっても、地域ごとの主権要件を無視できなくなっていることを示す動きです。
セキュリティサービスは、攻撃検知ログや端末情報など、機微性の高いデータを扱います。そのため、データがどこに保存され、誰がアクセスでき、どの法律が適用されるのかは、顧客にとって極めて重要な判断材料となります。CrowdStrikeは、こうした要請に応える形で、地域ごとにデータ処理・保管を完結させるクラウド構成を打ち出しています。

この取り組みが象徴的なのは、ソブリンクラウドの必要性が、もはや政府や公共機関だけの話ではなくなっている点です。金融、エネルギー、通信、製造業など、規制が厳しく社会的影響の大きい産業では、「クラウドを使うかどうか」ではなく、「どの主権モデルのクラウドを選ぶか」が問われる段階に入りつつあります。

CrowdStrikeの事例は、ソブリンクラウドが特別な選択肢ではなく、民間企業にとっても現実的で、競争力に直結する要件になり始めていることを示しています。

ソブリンクラウド導入時の注意点

ソブリンクラウドは主権性や信頼性の面で大きなメリットがありますが、すべてのシステムに無条件で適しているわけではありません。導入を検討する際には、次の点に注意が必要です。

グローバル展開との両立が難しい

ソブリンクラウドは、データや運用を特定の国・地域に限定する設計が前提となります。

そのため、複数国で同一システムを展開したい場合や、国境を越えたデータ連携が頻繁に発生する業務では、柔軟性が下がるケースがあります。

グローバル標準化を重視する企業ほど、慎重な検討が求められます。

コストが高くなりやすい

主権性を担保するためには、専用の運営体制やガバナンス、監査プロセスが必要となり、従来のグローバルクラウドと比べて、初期費用や運用コストが割高になる傾向があります。

セキュリティや主権性にどこまで投資するかは、経営レベルでの判断が重要です。

利用可能サービスが限定される場合がある

ソブリンクラウドでは、すべてのクラウドサービスが同時に提供されるとは限りません。特に最新のマネージドサービスやAI関連機能は、提供開始まで時間がかかる場合があります。

そのため、機能要件と主権要件のバランスを事前に整理しておく必要があります。

こうした点を踏まえると、現実的なアプローチは、「すべてをソブリンクラウドにする」のではなく、「重要データや基幹システムに限定して適用する」ことです。システムの特性に応じてグローバルクラウドと使い分ける設計こそが、失敗しにくい導入パターンと言えるでしょう。

これからの展望

ソブリンクラウドをめぐる動きは今後さらに広がり、特定の国や地域に限らない国際的な前提条件として定着していくと考えられます。欧州を起点に各国版ソブリンクラウドが増え、クラウドの選択肢は「グローバル一択」から、主権性を考慮した多層的な構造へと変化していくでしょう。

今後は、主権性を維持しながら安全に連携するソブリンクラウド間の相互接続や、AI・重要インフラとの融合も進むと見られます。その結果、ソブリンクラウドは「特殊な政府向けIT」ではなく、次世代の標準インフラの一部として、多くの組織にとって無視できない前提になっていくはずです。


参考・出典

本記事は、以下の資料を基に作成しました。


AI利用について

本記事はAIツールの支援を受けて作成されております。 内容は人間によって確認および編集しておりますが、詳細につきましてはこちらをご確認ください。

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