フィンテック×AI最新5事例:OpenAIと提携した金融大手5社から見る動向と次の一手

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世界のフィンテック業界では、生成AIを「チャットボット」として使う段階はすでに終わりつつあります。いま起きているのは、
①ChatGPTなどのエージェントに自社の金融データをつなぐことと、
②社員や顧客がその上で“実際にお金を動かす”ところまで一気通貫で支援すること
です。
LSEG(ロンドン証券取引所グループ)、Intuit、PayPal、野村ホールディングス、バンク・オブ・アメリカといったプレーヤーは、まさにその最前線にいます。本記事では、これら5つの一次情報をもとに、フィンテック×AIの最新事例とそこから見えるトレンドを、日本のビジネスパーソン向けに整理します。

1. LSEG:MCPコネクタで「金融データ×ChatGPT」を安全につなぐ

LSEGは2025年12月、ChatGPT向けのModel Context Protocol(MCP)コネクタを提供し、同社の「Workspace」や「Financial Analytics」などのライセンス済みデータをChatGPTから直接利用できるようにすると発表しました。

ChatGPTユーザーは、LSEGの契約ユーザーであれば、株価やマーケットデータ、ニュースやアナリストコメントを、ChatGPTの画面からそのまま呼び出し、分析・要約させることが可能になります。

さらに、約4,000人のLSEG社員にChatGPT Enterpriseを展開し、社内業務でもAI活用を加速させる計画です。

ここから見えるポイントは3つです。

  1. 「データを持つ側」が主導権を握り始めている
    AIそのものではなく、高品質でライセンス済みの金融データ+AIという組み合わせが価値の源泉になっています。
  2. MCPのような“安全なつなぎ方”が競争力になる
    単なるAPI連携ではなく、権限管理やコンプライアンスに配慮した形で、生成AIにデータを渡す仕組みづくりが重要になっています。
  3. 対顧客と対社員の両面でAIを活用
    顧客向けサービスと同時に、社員の生産性向上にもAIを使う「両利きのAI戦略」がトレンドになりつつあります。

2. Intuit:ChatGPT内から“その場で行動できる”個別最適マネーアドバイス

会計・税務・中小企業向けソフトウェアで知られるIntuitは、OpenAIとの複数年の戦略的パートナーシップを発表し、IntuitのアプリをChatGPT内で使えるようにする構想を打ち出しました。

ChatGPTユーザーは次のような質問に対して、IntuitのAIプラットフォームを通じたパーソナライズされた提案とアクションを取れるようになります。

  • 「どうすれば借金を早く返せるか?」
  • 「クレジットスコアを上げるには?」
  • 「自分のビジネスの利益率を高めるには?」

そのうえで、以下のようなものを提案してくれます。

  • 自分に合ったクレジットカード・ローン・住宅ローンの候補提示
  • 過去の支出データを踏まえた節約アドバイス
  • 中小企業向けには、売上増加につながるキャンペーン設計や、請求書リマインドの自動化、資金繰りのためのローン選択など

これは、フィンテック×AIが検索やチャットの世界から、「行動まで含めたコパイロット」へと進化していることを象徴しています。日本の金融機関やフィンテック企業にとっても、アドバイスにとどまらず、口座開設・商品申込・支払い・投資執行などを同じ画面の中で完結させるUXを設計できるかが勝負になっていきます。

3. PayPal:エージェントコマースと「Instant Checkout」でチャットから即購入へ

PayPalはOpenAIと協業し、Agentic Commerce Protocol(ACP)を採用してChatGPT内の決済とコマースを拡張すると発表しました。

主なポイントは次の通りです。

  • Instant Checkout:ChatGPT上で商品を見つけたユーザーが、PayPalウォレット(銀行口座、残高、カードなど複数の資金源)で、数タップで決済まで完了。
  • 数千万規模の加盟店をChatGPT内で“発見可能”に
    • ACPサーバーを通じて、PayPalの加盟店の商品カタログをChatGPTに接続。
    • 個々の店舗ごとの専用連携は不要で、PayPal側がルーティングや決済のオーケストレーションを担う。
  • 社内でもAI活用を拡大:24,000人超の社員にChatGPT Enterpriseを展開し、エンジニアにはコード生成(Codex)を活用するなど、開発生産性も高める戦略。

ここから見えるのは、 「チャットからカート、そして決済」までが一続きの体験になっていくという流れです。

日本のEC・決済事業者にとっては、「自社の加盟店・店舗情報をAIエージェント経由で“検索される前提”で構造化する」「決済や本人確認のフローを、チャットUIに最適化して再設計する」といった動きが、近い将来必須になっていく可能性があります。

4. 野村ホールディングス:OpenAI Deep Researchで資産運用の高度化へ

野村ホールディングスは2025年11月、OpenAIとの戦略的提携を発表し、資産運用領域での高度なリサーチ・投資アドバイスに生成AIを活用する方針を示しました。ポイントは以下3つです。

  • OpenAI Deep Researchを採用し、OpenAIからの技術支援を受けながら新サービスを開発
  • 自社が蓄積してきた高付加価値のデータと、最新の外部データセットを組み合わせて活用
  • その結果として、差別化された投資アドバイス、マーケット分析、データソリューションを提供することを目指す

また、同社代表執行役社長 グループCEO 奥田健太郎氏のコメントとして、以下のような狙いが語られています。

  • 生成AIは単なる業務効率化に留まらず、
  • より高度な投資アドバイス・マーケット分析を可能にし、
  • 伝統的なビジネスモデルを超えた新たな収益機会を生み出す

ここから読み取れるのは、「日本の大手金融機関も、AI×自社データの本格活用フェーズに入った」ということです。単に汎用チャットAIを導入するのではなく、「高度なリサーチ工程」「投資プロセス全体」にAIを組み込むことで、プロフェッショナル向けサービスそのものを再設計しようとしている点が重要です。

5. バンク・オブ・アメリカ:AskGPSで法人向け決済ビジネスを底上げ

バンク・オブ・アメリカは2025年9月、グローバル決済ソリューション部門(Global Payments Solutions:GPS)向けに、社内用の生成AIアシスタント「AskGPS」を導入したと発表しました。

AskGPSの特徴は次の通りです。

  • 3,200件以上の社内ドキュメント(商品ガイド、タームシート、FAQなど)を学習
  • 担当者が複雑な顧客の質問を投げると、数秒で回答案を生成
  • これまで1時間以上かかっていた調査がほぼ即時になり、「年間で数万時間規模の節約が見込まれる」

さらに、同社のGPS部門ではすでに、以下のようなAIソリューションも展開しており、AskGPSはこれらと並ぶ“AIの中枢ハブ”として位置づけられています。

  • バーチャルアシスタント「CashPro Chat(Erica技術搭載)」
  • キャッシュポジションを予測する「CashPro Forecasting」
  • 各種チャネルからの支払情報を束ねる「Intelligent Receivables」

この事例は「AIを顧客向けチャットボットだけでなく、社員向けナレッジ検索・意思決定支援にも広げることで、法人ビジネス全体のスループットと提案力を底上げしている」という点で、日本の金融機関・事業会社にも示唆が大きいと言えます。

6. 共通する4つのトレンドと、日本企業が取るべき一手

これら5つの事例から、AIが金融サービスにおいて「ツール」から「プラットフォーム」へと進化しているということが分かりました。
また改めて、フィンテック×AIの最新トレンドを整理すると、次の4点に集約できます。

  1. “AIそのもの”ではなく「自社データ×AI」が差別化の源泉
    LSEGや野村のように、長年蓄積した金融データ・リサーチとAIを組み合わせることで、参入障壁の高いサービスが生まれています。
  2. チャットの中で「相談→提案→実行」が完結するUX
    IntuitやPayPalは、ChatGPTの中で商品提案から申込・決済までを一気通貫で完結させる体験づくりを進めています。
  3. 社内向けAIがビジネス全体のレバレッジになる
    LSEGやPayPal、バンク・オブ・アメリカは、ChatGPT Enterpriseや専用アシスタントを通じて社員の業務を変革しようとしています。
  4. ガバナンス・セキュリティを前提とした“安全なつなぎ方”が必須
    MCPコネクタや社内限定のAIアシスタントのように、データガバナンスを前提にしたアーキテクチャ設計が、金融機関にとっての必須要件になっています。

日本企業が今すぐ取り組める実践ステップとしては、次の3つが現実的です。

  1. 自社の“AI向けデータ棚卸し”をする
    取引履歴、問い合わせログ、商品マニュアル、営業資料など、「AIに読ませたら価値が出そうなデータ」を洗い出す。
  2. 少数でも良いので“エンドツーエンドのユースケース”を設計する
    「顧客の質問→最適な提案→申込・決済」までを1つのストーリーとして描く。
  3. 技術導入とセットでガバナンスを設計する
    どのデータをAIに見せてよいか、ログをどう管理するか、説明責任をどう果たすか、といったルールを最初から組み込む。

これらを進めることで、単発のPoCで終わらない、持続的なフィンテック×AI戦略へとつなげていくことができます。


参考・出典

本記事は、以下の資料を基に作成しました。


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本記事はAIツールの支援を受けて作成されております。 内容は人間によって確認および編集しておりますが、詳細につきましてはこちらをご確認ください。

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