目次
1. タッチ決済で乗れる「オープンループ乗車」が本格化
1-1. 羽田空港周辺から始まった都営地下鉄×京急の実証
東京都交通局と京浜急行電鉄、三井住友カード、Visa、JCBなどは、2024年12月21日からタッチ決済対応のクレジット・デビット・プリペイドカードを自動改札にかざすだけで乗車できる実証実験を開始しました。対象は都営地下鉄26駅+京急線10駅で、羽田空港と品川・都心方面を結ぶインバウンド向けルートにフォーカスしています。
京急側は、2025年中に京急線全駅でタッチ決済による乗車を可能にする方針を掲げており、羽田空港を起点に「成長トライアングルゾーン(品川・羽田・横浜)」を強化する戦略と位置づけています。
1-2. 2025年9月、都営地下鉄で55駅まで拡大
2025年9月10日からは、この実証実験の対象駅が都営地下鉄55駅まで拡大されました。2024年12月に浅草線・大江戸線の26駅で始まったタッチ決済乗車サービスを、都営地下鉄全106駅のうち55駅まで広げるもので、公共交通向けソリューション「stera transit」が引き続き活用されました。
東京都は、2025年度内に都営地下鉄全駅でのタッチ決済導入を目指しており、インバウンド旅客やICカードを持たない利用者にも使いやすい環境づくりを進めています。
1-3. 首都圏11社局が「タッチ決済で相互直通」へ
さらに2025年10月には、首都圏の大手私鉄・地下鉄11社局(小田急・京王・京急・東急・東京メトロ・都営地下鉄・東武など)と三井住友カード、JCB、オムロン、QUADRACが、クレジットカード等のタッチ決済による後払い乗車サービスの相互利用に向けた共同事業協定を締結しました。
2026年春以降、タッチ決済対応カードやスマホを自動改札の専用端末にかざすだけで、対象11社局をまたいでシームレスに乗車できるようになる予定です。対応ブランドはVisa、Mastercard、JCB、American Express、Diners、Discover、銀聯の7ブランドが予定されています。
1-4. バスでも広がるタッチクレジット
鉄道だけでなく、京急バスも羽田空港関連のリムジン路線などで「タッチクレジットカード決済」を段階的に拡大しています。2025年3月15日・4月1日・7月16日から、それぞれ利用可能路線を追加し、Visa・JCB・American Express・Diners・Discover・UnionPayなど主要ブランドに対応しています。
ポイント:
- 「交通系IC(Suica/PASMO)」に加え、「オープンループ型(クレカタッチ)」という選択肢が増えた
- 特にインバウンドやビジネス出張者にとって、カード1枚で鉄道・バスにそのまま乗れる利便性が高い
- 交通事業者にとっても、MaaSアプリや観光パスとの連携を前提にしたデータドリブンな運賃・商品設計がしやすくなる
2. Suica・PASMOのコード決済「teppay」で生活決済プラットフォーム化
2-1. teppayとは何か
JR東日本とPASMO協議会・東京都交通局は、モバイルSuica/モバイルPASMOをアップデートし、新たなコード決済サービス「teppay(テッペイ)」を2026年秋からJR東日本(モバイルSuica)で、2027年春からPASMO(モバイルPASMO)で提供すると発表しました。
モバイルSuica・PASMOアプリさえあれば追加のアプリ導入は不要で、アプリ内に「teppay」ボタンが追加され、そこから以下の機能が利用できます。
- スマホ画面を提示するコード決済
- 家族・友人間で残高をやり取りできるP2P送金機能
- モバイルSuica/PASMOへのチャージ
- インターネット決済に使える「teppay JCBプリカ」の発行
- 自治体のプレミアム商品券などに使える地域限定バリュー(バリチケ)
コード決済は、2025年10月末時点でJCBの「Smart Code」スキームを通じて全国160万か所以上の加盟店で利用可能とされており、従来の交通系電子マネーの利用シーンを大きく超えるポテンシャルを持ちます。
2-2. Suica Renaissance:移動デバイスから「生活デバイス」へ
JR東日本はグループ経営ビジョン「勇翔2034」の中で、Suicaを「移動のデバイス」から「生活のデバイス」へ進化させる「Suica Renaissance」を掲げています。今後10年間で、移動・決済だけでなく地域の様々な生活シーンで使えるデジタルプラットフォームにする方針です。
teppayはその中核機能のひとつであり、以下の役割を担うことが期待されています。
- MaaSアプリのID
- 地域通貨・商品券の受け皿
- オンライン/オフラインの共通ウォレット
3. 市場データから見る日本のキャッシュレス&MaaSの行方
3-1. 日本のキャッシュレス比率は42.8%、コード決済も約1割に
経済産業省の集計では、2024年のキャッシュレス決済比率は42.8%(141.0兆円)に達し、その内訳はクレジットカード82.9%(116.9兆円)、デビットカード3.1%(4.4兆円)、電子マネー4.4%(6.2兆円)、コード決済9.6%(13.5兆円)となっています。
2022年の36.0%からわずか2年で約7ポイント伸びており、とくにコード決済の比率が大きく上昇しています。
また、市場調査会社GlobalDataのレポートタイトルが示す通り、2025年に日本のクレジット・チャージカード決済は9.4%成長すると予測されており、カード決済は依然としてキャッシュレスの中心です。
3-2. 政府目標を前倒し達成、80%に向けた第2フェーズへ
日本政府は、2019年の成長戦略で「2025年までにキャッシュレス比率40%」、将来的には「80%」という目標を掲げてきましたが、 2024年時点で「42.8%」に到達したことで、「目標達成」から「さらなる高度化・多様化」のフェーズに入ったと言えます。
さらに、デジタル給与・デジタル地域通貨など「お金のデジタル化」や、デジタル円(CBDC)検討の加速など、お金に関する急激な革新が進んでいる中、MaaS・キャッシュレスはインフラ・データプラットフォームとしての重要性を増していると言えるでしょう。
まとめ:MaaSとキャッシュレスは「これから5年」が勝負
日本のMaaSとキャッシュレス決済は、以下によって交通と金融が一体となった「日常のDX」が加速しています。
- タッチ決済によるオープンループ乗車の本格化
- Suica・PASMOのteppayを軸にした生活決済プラットフォーム化
- 政府目標を超えたキャッシュレス比率と、カード・コード決済の成長
この流れをどう自社のサービスやキャリアに結びつけるか——それを考えることが、これからの5年間で大きな差を生むと言えるでしょう。
参考・出典
本記事は、以下の資料を基に作成しました。
- 東京都交通局(https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/):令和6年12月21日からクレジットカード等のタッチ決済による乗車サービス(実証実験)を開始します~羽田空港をご利用のインバウンドのお客様が品川・都心方面へ便利で快適に~(2024年12月12日)(アクセス日:2025年12月04日)
https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/pickup_information/news/subway/2024/sub_p_2024121211829_h.html
Suica・PASMOのコード決済サービス「teppay」を2026年秋より提供開始(2025年11月25日)(アクセス日:2025年12月04日)
https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/pickup_information/news/subway/2025/sub_i_2025112512298_h.html - 経済産業省(https://www.meti.go.jp/english/index.html):2024年消費者の支払総額に占めるキャッシュレス決済比率を算出(2025年03月31日)(アクセス日:2025年12月04日)
https://www.meti.go.jp/english/press/2025/0331_001.html - 京浜急行バス株式会社(https://www.keikyu-bus.co.jp/):「タッチクレジットカード決済」の拡充について【利用可能なルート追加】(2025年11月25日)(アクセス日:2025年12月04日)
https://www.keikyu-bus.co.jp/info/2025/0220_3427.html
「タッチクレジットカード決済」の拡充について【利用可能なルート追加】(2025年02月28日)(アクセス日:2025年12月04日)
https://www.keikyu-bus.co.jp/en/info/2025/0228_3446.html
「タッチクレジットカード決済」の拡大について(2025年07月01日)(アクセス日:2025年12月04日)
https://www.keikyu-bus.co.jp/en/topics/2025/0701_3565.html - 株式会社ジェーシービー(https://www.global.jcb/):令和7年9月10日からクレジットカード等のタッチ決済による乗車サービス(実証実験)を拡大します~都営地下鉄浅草線、大江戸線で利用可能駅を拡大、より便利で快適に~(2025年09月08日)(アクセス日:2025年12月04日)
https://www.global.jcb/ja/press/2025/202509081400_merchants.pdf - 株式会社三井住友銀行(https://www.smbc-card.com/):2025年9月10日からクレジットカード等のタッチ決済による乗車サービス(実証実験)を拡大します ~都営地下鉄浅草線、大江戸線で利用可能駅を拡大、より便利で快適に~(2025年09月08日)(アクセス日:2025年12月04日)
https://www.smbc-card.com/company/news/news0002067.pdf - 京浜急行電鉄株式会社(https://www.keikyu.co.jp/):関東の鉄道事業者 11 社局の路線を対象とした、クレジットカード等のタッチ決済による後払い乗車サービスの相互利用に向けた検討を開始します―共同事業協定を締結し、2026 年春以降の開始を目指します-(2025年10月29日)(アクセス日:2025年12月04日)
https://www.keikyu.co.jp/assets/pdf/20251029HP_25130TE.pdf - GlobalData Plc(https://www.globaldata.com/):Japan credit and charge card payments to grow by 9.4% in 2025, forecasts GlobalData(2025年08月07日)(アクセス日:2025年12月04日)
https://www.globaldata.com/media/banking/japan-credit-and-charge-card-payments-to-grow-by-9-4-in-2025-forecasts-globaldata/
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